船舶に貨物を積載して密輸入を図つた場合にその航行の用に供した海図を沒収するにあたり、関税法第八三条第一項を適用した違法があつても、右の海図が被告人以外の者の所有に属さないことが明らかであつて刑法第一九条により沒収しうる以上、刑訴第四一一条による破棄の事由にならない。
刑訴第四一一条に該当しない一事例(沒収の根拠規定の適用の誤の場合)
関税法83条1項,刑法19条,刑訴法411条
判旨
密輸入の航議に用いられた海図は刑法19条1項2号の「犯罪行為の用に供した物」に該当し没収の対象となるが、関税法上の没収規定を誤用することは法令違反にあたる。もっとも、没収の対象自体に間違いがなければ、その適用条文の誤りは直ちに判決を破棄すべき事由(刑訴法411条)には当たらない。
問題の所在(論点)
犯罪の航海に用いられた海図が「犯罪行為の用に供した物」として没収の対象となるか。また、没収の根拠条文を誤った場合(関税法規定の誤用)に、それが判決の破棄事由となるか。
規範
犯罪の実行に不可欠な手段として利用された物品は、刑法19条1項2号にいう「犯罪行為の用に供した物」として没収の対象となる。また、実体法上の没収要件を充たす場合に、適用すべき罰則の根拠条文を誤って引用したとしても、没収の結果そのものが正当である限り、判決に影響を及ぼす著しい法令違反(刑訴法411条)とは認められない。
重要事実
被告人D(船長)は、密輸入を図る目的で、あらかじめ購入した海図5枚を航海中に参照し、奄美大島から和歌山県附近まで航行して貨物の密輸入を実行した。原審は、当該海図を没収するに際し、他の輸入貨物と同様に関税法83条1項(当時の規定)を適用して没収を命じた。
あてはめ
本件海図は、被告人が密輸入という犯罪行為を遂行するために購入し、実際の航海において按じつつ(参照しつつ)航行したものであるから、犯罪実行の手段として「犯罪行為の用に供した物」に該当する。原審がこれを没収の対象とした判断は正当である。もっとも、海図は輸入貨物そのものではないため、関税法を適用したのは法令違反であるが、刑法19条によりどのみち没収が可能である以上、結論において不当とはいえない。
結論
本件海図は没収の対象となり、原判決の適用条文の誤りは判決の破棄を要するほどの違法ではないため、上告を棄却する。
実務上の射程
犯罪の手段として用いられた付随的な物品の没収根拠を確定させた事例。答案上は、没収の適条誤りがあっても結論が正当であれば違憲や破棄事由にはならないという訴訟法上の論点(刑訴法411条の適用局面)でも活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)3683 / 裁判年月日: 昭和32年2月21日 / 結論: 破棄自判
旧関税法(昭和二五年法律第一一七号による改正前及び改正後のもの)第七六条第二項に規定する免許を受けない貨物の密輸出の予備罪を認定した場合には、その予備行為に供した船舶は同法(同前)第八三条第一項により没収すべきである。