一 刑法第二三四条の業務妨害罪にいう「業務ヲ妨害シタル」こととは、具体的な個々の現実に執行している業務の執行を妨害する行為のみならず、被害者の当該業務における地位にかんがみ、その遂行すべき業務の経営を阻害するにたる一切の行為を指称する。 二 同条にいう「威力」とは、犯人の威勢、人数および四囲の状勢よりみて被害者の自由意思を制圧するにたる勢力を指称する。
一 刑法第二三四条にいう「業務ヲ妨害シタル」ことの意義 二 同条にいう「威力」の意義
刑法234条,刑法233条
判旨
業務妨害罪(刑法234条)における「業務」は地位に基づき遂行すべき業務を含み、「威力」は被害者の主観的状態にかかわらず自由意思を制圧するに足りる客観的な勢力を指すと判示した。
問題の所在(論点)
1. 業務妨害罪の「業務」に、現実に遂行中の事務だけでなく、地位に基づく抽象的な執務も含まれるか。2. 被害者が「忍耐して対応する」との意思決定をした場合、客観的に制圧的な勢力があっても「威力」の該当性は否定されるか。
規範
1. 刑法234条にいう「業務」とは、具体的かつ現実に執行している業務のみならず、広く被害者の当該業務における地位に鑑み、その任として遂行すべき業務をも含む。2. 同条にいう「威力」とは、犯人の威勢、人数、周囲の情勢からみて、被害者の自由意思を制圧するに足りる犯人側の勢力をいい、客観的に自由意思を制圧するに足りるものであれば足り、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要しない。
重要事実
被告人らは労働組合退職者同盟を結成し、団体交渉の過程で工場事務所へ不法に侵入した。被告人らは工場長に対し、工場内の専務室内で面会を迫った。工場長は当初、侵入を阻止しようとしたが、最終的に「事態の成り行きを察知」し、やむを得ず質問に応じる形で対面した。原審は、工場長が現実の執務中ではなかった点、および工場長が自らの意思で着席し対談に応じたとして、威力業務妨害罪の成立を否定した。
あてはめ
1. 被告人らが工場長に対して行った行為は、たとえ工場長が具体的・現実的な生産計画事務の執行中でなかったとしても、工場長としての地位に基づき遂行すべき広範な執務を阻害するものであるから、業務の妨害に当たる。2. 「威力」の有無は被害者の主観的条件に左右されるべきではない。工場長が「辛抱をする決意」をして対談に応じたとしても、多人数による不法侵入という客観的事態が被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力であれば、威力に該当すると解すべきである。
結論
被告人らの行為は、業務妨害罪の「業務」および「威力」の要件を充足し得る。したがって、これらを否定した原判決には法令解釈の誤りがあり、破棄を免れない。
実務上の射程
業務妨害罪の成否を論じる際、業務の範囲の広汎性と、威力の客観的判断基準を示す規範として不可欠。特に労働紛争や抗議活動の事案において、被害者側の「やむを得ない受忍」があった場合でも威力該当性を肯定するための論拠となる。
事件番号: 昭和37(あ)426 / 裁判年月日: 昭和38年12月26日 / 結論: 棄却
刑法第二三四条の「威力」とは、犯人の威勢、人数および四囲の状勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力と解する相当とし、かつ右勢力は客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足るものであればよいのであつて、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要するものではないと解すべきである(昭和二五年(れ)第一八六四…
事件番号: 昭和45(あ)2199 / 裁判年月日: 昭和53年3月3日 / 結論: 破棄自判
公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為として行われた本件威力業務妨害及び不退去行為は、刑法上の違法性を欠くものではない。
事件番号: 昭和25(れ)1902 / 裁判年月日: 昭和27年2月22日 / 結論: 棄却
一 生産管理として多数の威力をもつて会社の事業の管理即ち支配を排除した以上、刑法第二三四条の業務妨害が成立する。 二 経営権と労働権との対等を保障している現行の法律秩序からすれば、両者の間に労働協約による特別の定めがないかぎり、企業経営、生産行程の指揮命令は使用者側の権限に属するのであるから、同盟罹業が有効でないからと…