甲・乙両自動車の運行により生じた交通事故につき、被害者が甲自動車の保有者との関係では自動車損害賠償責任保険から損害の填補を受けることができない場合であつても、乙自動車の保有者の加入している右保険から損害の填補を受けることができるときは、被害者は、政府の行う自動車損害賠償保障事業に対し甲自動車に関する保障金を請求することができない。
甲・乙両自動車の運行により生じた交通故につき甲自動車の保有者との関係では自動車損害賠償責任保険から損害の填補を受けることができないが乙自動車の保有者の加入している右保険から損害の填補を受けることができる場合と政府の行う自動車損害賠償保障事業に対する甲自動車に関する保障金請求の可否
自動車損害賠償保障法(昭和45年法律第46号による改正前のもの)72条1項
判旨
自動車損害賠償保障事業による救済は、他の手段で救済を受けられない被害者に最終的・最小限度の救済を与える趣旨である。共同不法行為において、加害者のうち一名でも自賠責保険から損害の填補を受けられる場合は、政府への保障金請求はできない。
問題の所在(論点)
複数の自動車の運行により生命・身体が害された共同不法行為において、一部の加害者の自賠責保険から損害の填補を受けられる場合、自動車損害賠償保障法72条1項に基づく政府への保障金請求が可能か。
規範
政府の保障事業は、自賠責保険の制度になじまない特殊な場合(保有者不明、無保険等)の被害者を、社会保障政策上の見地から補完的に救済するものである。したがって、本事業による救済は「他の手段によっては救済を受けることができない交通事故の被害者に対し、最終的に最小限度の救済を与える趣旨」のものと解すべきである。よって、複数の加害車が存在する共同不法行為の場合、全加害車の保有者が不明、または無保険等により自賠責保険から填補を受けられないときに限り請求が可能となる。
重要事実
被害者Dは、E社が保有する普通乗用車と、事故後に逃走した保有者・運転者不明の貨物自動車による共同加害により死亡した。Dの遺族である上告人らは、E社の加入する自賠責保険から保険金500万円を受領したが、さらに政府に対し、保有者不明の貨物自動車分について自動車損害賠償保障法72条1項に基づく保障金の支払いを求めて提訴した。
あてはめ
本件では、加害車両のうち一台であるE社の普通乗用車については保有者が判明しており、かつ自賠責保険に加入していた。上告人らは、実際にこの保険から事故につき500万円の受領を受けている。加害者のうち一名でも明らかであり、その者が加入する自賠責保険から損害の填補を受けることができる以上、政府の保障事業が予定する「他の手段によっては救済を受けることができない」場合には該当しないと評価される。
結論
加害者のうち一名の自賠責保険から損害の填補を受けられるときは、政府に対する保障金の請求をすることはできない。
実務上の射程
自賠責保険制度と政府保障事業の補充的関係を明確にした重要判例である。答案上は、複数の車両が関与する事故(ひき逃げ車両と特定車両の共同不法行為など)において、政府保障事業への請求可否が問われた際、本判例の「最終的・最小限度の救済」という趣旨から論証を展開することになる。
事件番号: 昭和56(オ)1110 / 裁判年月日: 昭和57年4月2日 / 結論: 棄却
友人が窃取し運転していた自動車に同乗中右友人が起した事故により死亡した被害者において右友人の窃取及び運転を容認していたなど原判示の事実関係のもとにおいては、右両名の運行支配が本件自動車のそれに比較して、直接的、顕在的、具体的であるというべきであつて、右被害者の両親は右自動車の保有者に対して右被害者が自動車損害賠償保障法…