一 甲と乙との通謀により甲から乙に対し抵当権を設定したものと仮装した抵当権設定登記が経由されたのち、乙が善意の丙に対し転抵当権を設定し、丙を権利者とする転抵当権設定登記が経由された場合において、丙は、いまだ民法三七六条所定の対抗要件を具備しないときであつても、原抵当権の設定の無効を理由とする原抵当権設定登記の抹消について、甲に対し承諾の義務を負うものではない。 二 民法九四条二項所定の第三者の善意の存否は、同条項の適用の対象となるべき法律関係ごとに当該法律関係につき第三者が利害関係を有するに至つた時期を基準として決すべきである。
一 原抵当権が虚偽仮装であることにつき善意で転抵当権の設定を受けその旨の登記を経由した者が民法三七六条所定の対抗要件を具備しない場合と同人の原抵当権設定者に対する原抵当権設定登記の抹消の承諾義務 二 民法九四条二項所定の第三者の善意の判定時期
民法94条,民法376条1項,不動産登記法146条1項
判旨
仮装の原抵当権に基づき善意で転抵当権の設定を受けた者は、民法376条1項の対抗要件を具備していなくとも、民法94条2項の「第三者」として保護され、原抵当権設定者は無効を対抗できない。
問題の所在(論点)
虚偽仮装の原抵当権に基づき転抵当権の設定を受けた者が、民法376条1項の対抗要件を具備していない場合であっても、民法94条2項の「第三者」として保護され、原抵当権設定者に対して無効を対抗されない地位を主張できるか。
規範
1. 民法94条2項の「第三者」とは、虚偽表示の当事者及びその一般承継人以外の者であって、虚偽表示の目的につき法律上の利害関係を有するに至った者をいう。仮装の原抵当権から転抵当権の設定を受けた者は、有効な契約に基づき法律上の地位を取得した以上、同条項の「第三者」に該当する。 2. 転抵当権の取得につき民法376条1項の対抗要件(原債務者への通知・承諾)を欠く場合であっても、それは転抵当権の行使や効力主張の要件にすぎず、民法94条2項に基づく「第三者」としての保護を妨げるものではない。また、善意・悪意の判断基準時は、対象となる法律関係ごとに、第三者が利害関係を有するに至った時期を基準とする。
事件番号: 昭和43(オ)446 / 裁判年月日: 昭和43年10月8日 / 結論: 棄却
予告登記の存することの一事から、これに後行して係争不動産につき物権の得喪変更に関する法律行為を為した第三者が、当該登記原因の瑕疵につき悪意と推定されるべき筋合はない。
重要事実
不動産所有者Xは、融資の斡旋を依頼したDに対し、便宜上、Dを抵当権者とする仮装の抵当権(本件原抵当権)を設定した。DはXの依頼に反し、善意のYに対し、本件原抵当権に転抵当権を設定して資金を借り受けた。Yは転抵当権設定の付記登記を経由したが、376条1項所定の通知・承諾は経ていなかった。Xは、原抵当権が通謀虚偽表示により無効であることを理由に、Yに対し、不動産登記法上の利害関係人として原抵当権抹消の承諾を求めた。
あてはめ
Yは、Dとの有効な転抵当権設定契約に基づき、仮装された原抵当権という外観を信頼して一定の法律上の地位を取得した者であるから、民法94条2項の「第三者」に該当する。376条1項の対抗要件の有無は、転抵当権取得を原債務者に対抗できるかという問題であり、転抵当権の登記を保持しうるかという問題とは別個である。したがって、Yが善意で転抵当権を取得し登記を得ている以上、Xは原抵当権の無効をYに対抗できず、Yは登記上の利害関係人として原抵当権の抹消に対する承諾を拒否できる。他方、Yが本件原抵当権の被担保債権を差し押さえた(取立権行使)点については、差押え時点では虚偽表示につき悪意であったため、当該差押えに関しては「第三者」として保護されない。
結論
本訴(承諾請求)については、Yは376条1項の対抗要件を欠いていても民法94条2項の善意の第三者として保護されるため、Xの請求は認められない。反訴(取立金請求)については、差押え時に悪意であるため認められない。
実務上の射程
転抵当権者が「第三者」として保護されるための要件として、376条1項の対抗要件具備までは不要であることを示した。また、同一の当事者間でも、転抵当権の設定という法律関係と、被担保債権の差押えという法律関係では、利害関係を有するに至った時期が異なるため、善意・悪意の判断基準時が別々に判断される点に注意が必要である。
事件番号: 昭和46(オ)803 / 裁判年月日: 昭和47年11月28日 / 結論: 破棄差戻
甲が、乙と相通じ、仮装の所有権移転請求権保全の仮登記手続をする意思で、乙の提示した所有権移転登記手続に必要な書類に、これを仮登記手続に必要な書類と誤解して署名押印したところ、乙がほしいままに右書類を用いて所有権移転登記手続をしたときは、甲は、乙の所有権取得の無効をもつて善意・無過失の第三者に対抗することができない。
事件番号: 昭和43(オ)892 / 裁判年月日: 昭和44年4月25日 / 結論: 棄却
甲所有の土地建物が乙に贈与されたが、その登記が未了のため、乙が甲を相手に処分禁止の仮処分をしている場合において、不動産周旋業者で甲および乙と永年交際し右建物を賃借している丙が、土地建物の所有権の帰属につき甲と乙が係争中であることを知つているばかりでなく、甲が乙を欺罔して右仮処分の執行を取り消させ、土地建物が乙名義になる…
事件番号: 昭和43(オ)732 / 裁判年月日: 昭和45年11月19日 / 結論: 破棄差戻
甲が、乙からその所有不動産を買い受けたものであるにもかかわらず、乙に対する貸金を被担保債権とする抵当権と、右貸金を弁済期に弁済しないことを停止条件とする代物弁済契約上の権利とを有するものとして、抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記を経由した場合において、丙が乙から右不動産を買い受けて所有権取得登記を経由した…
事件番号: 昭和59(オ)691 / 裁判年月日: 昭和62年11月12日 / 結論: 棄却
不動産が譲渡担保の目的とされ、設定者甲から譲渡担保権者乙への所有権移転登記が経由された場合において、被担保債務の弁済等により譲渡担保権が消滅した後に乙から目的不動産を譲り受けた丙は、民法一七七条にいう第三者に当たる。