有限会社の経営の実権を握つていた者が、第三者に対し自己の社員持分全部を相当の代償を受けて譲渡し、会社の経営を事実上右第三者に委ね、その後相当期間を経過しており、しかも右譲渡の当時社員総会を開いて承認を受けることがきわめて容易であつたなど、判示の事実関係のもとにおいて、右譲渡人が右社員持分譲渡を承認する社員総会決議及びこれを前提とする役員選任等に関する社員総会決議の不存在確認を求める訴を提起するのは、訴権の濫用として許されない。
有限会社の社員総会決議不存在確認を求める訴の提起が訴権の濫用にあたるとされた事例
有限会社法19条2項,有限会社法41条,商法252条,民法1条3項,民訴法第2編第1章
判旨
株主総会(社員総会)決議不存在確認の訴えの提起が、正当な事由なく会社支配の回復を図る意図に出たものであり、相手方に対し著しく信義を欠く場合には、訴権の濫用として不適法となる。
問題の所在(論点)
決議不存在確認の訴えという、瑕疵が重大で対世効も認められる訴訟類型において、原告の出訴行為が「訴権の濫用」として制限されるか。
規範
株主総会(社員総会)決議不存在確認の訴えは、判決の対世効(会社法838条、旧商法252条)が認められる重大な訴えである。そのため、当該訴えの提起が、著しく信義に反し、道義上容認できない目的をもってなされた場合には、信義則上の制約により、訴権の濫用として却下されるべきである。
重要事実
同族経営の有限会社において、取締役兼社員であった被上告人らは、経営不振を理由に持分を第三者(I夫婦)へ譲渡することに合意し、代償金500万円を受領して取締役を辞任した。I夫婦は経営権を取得し、約3年間にわたり事実上の経営にあたってきた。しかし、被上告人は、持分譲渡を承認した社員総会決議等が実際には存在しなかったとして、その不存在確認を求めて出訴した。
事件番号: 平成1(オ)573 / 裁判年月日: 平成2年12月4日 / 結論: 棄却
一 株式を相続により準共有するに至った共同相続人は、商法二〇三条二項にいう「株主ノ権利ヲ行使スベキ者」の指定及びその旨の会社に対する通知を欠く場合には、特段の事情がない限り、株主総会決議不存在確認の訴えにつき原告適格を有しない。 二 株式を準共有する共同相続人間において商法二〇三条二項にいう「株主ノ権利ヲ行使スベキ者」…
あてはめ
被上告人は自ら持分譲渡に合意し相当の代償を得ており、本来であれば支配株主として適正な社員総会を開催して承認を得るべき義務と容易な立場にあった。にもかかわらず、経営権譲渡から長年月が経過した後に、自らの不作為を奇貨として決議不存在を主張することは、正当な事由なく会社支配の回復を図る意図に出たものと解される。これは経営を引き継いだI夫婦に対する著しい信義違反であり、判決の対世効が及ぶ第三者への影響を鑑みても、道義上是認できない。したがって、本件訴えの提起は訴権の濫用にあたる。
結論
本件訴えの提起は不適法であり、却下すべきである。
実務上の射程
決議不存在確認の訴えは出訴期間の制限がないが、本判決は「訴権の濫用」という形式で実質的な時間的・誠実性の制約を課した。答案では、原告が自ら瑕疵を招いた事情や、長期間の放置、不当な目的(支配権の奪還等)がある場合に、訴えの適法性を否定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)1061 / 裁判年月日: 昭和36年12月14日 / 結論: 棄却
昭和二五年法律第一六七号による改正前の商法第二〇四条第一項但書に基き、株式会社の定款中に存する「取締役会の承諾なくしては株式を譲渡することを得ない」旨の規定は、会社の清算手続中はその効力を停止されるものと解すべきである。
事件番号: 昭和42(オ)867 / 裁判年月日: 昭和45年1月22日 / 結論: その他
一、第一審判決を取り消し、事件を第一審に差し戻す旨の控訴審判決があつた場合においては、控訴人は、取消の理由となつた右判決の判断の違法をいうときにかぎり、右判決に対して上告の利益を有する。 二、定款により株主総会における議決権行使の代理資格を株主に制限している株式会社において、株主名簿上の株主でない甲に乙名義株式の議決権…
事件番号: 昭和52(オ)833 / 裁判年月日: 昭和53年4月14日 / 結論: 棄却
有限会社の社員総会において、その社員である特定の者を取締役に選任すべき決議をする場合に、その特定の者は、右決議につき特別の利害関係を有する者にあたらない。
事件番号: 昭和39(オ)554 / 裁判年月日: 昭和42年2月10日 / 結論: 棄却
合資会社の社員が、他の社員を相手方として、同社員が同会社の無限責任社員ではないことならびに同会社から利益分配を受ける権利、退社のとき持分払戻を受ける権利および解散のとき残余財産の分配を受ける権利を有しないことの確認を求める訴は、即時確定の利益を欠き、不適法である。