一 寺院の住職たる地位の確認を求める訴が単に宗教上の地位についてその存否の確認を求めるものであるにすぎない場合には、右住職たる地位が宗教法人たる寺院の代表役員たりうる基本資格となるものであるときでも、右訴は、確認の訴の対象たるべき適格を欠くものに対する訴として不適法である。 二 特定人の住職たる地位の存否が他の具体的権利又は法律関係をめぐる紛争につき請求の当否を判定する前提問題となつている場合には、裁判所は、その判断の内容が宗教上の教義の解釈にわたる場合でない限り、右住職たる地位の存否について審判権を有する。
一 住職たる地位の存否の確認を求める訴と訴の適否 二 特定人の住職たる地位の存否が同人の具体的な権利又は法律関係をめぐる紛争につき請求の当否を判定する前提問題となつている場合と住職たる地位の存否についての裁判所の審判権
裁判所法3条,民訴法225条
判旨
宗教上の地位である住職の地位は、それ自体では「法律上の争訟」に当たらず確認の訴えの対象とならないが、具体的な権利義務に関する紛争の前提としてその存否を判断する必要がある場合には、裁判所の審判権が及ぶ。
問題の所在(論点)
1. 宗教上の地位である住職の地位の存否が、単独で確認の訴えの対象(法律上の争訟)となりうるか。2. 具体的な権利義務(不動産引渡請求)の前提問題として住職の地位の存否を判断することが許されるか。
規範
1. 裁判所が審判権を有する「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)とは、当事者間の具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する争いであって、かつ、終局的に法律を適用して解決しうるものをいう。2. 単なる宗教上の地位の存否は、具体的な権利又は法律関係に該当せず、確認の訴えの対象としての適格を欠く。3. もっとも、具体的な権利義務に関する紛争があり、その当否を判定する前提問題として宗教上の地位の存否を判断する必要がある場合、その判断の内容が宗教上の教義の解釈にわたるものでない限り、裁判所は審判権を有する。
重要事実
上告人(元住職)は、被上告人である宗教法人B1宗(包括団体)及びB2寺(被包括団体)に対し、自身がB2寺の住職たる地位にあることの確認を求める新訴を提起した。併せて、B2寺が上告人に対し、住職罷免に伴う占有権原喪失を理由として不動産等の引渡しを求めた訴訟も審理された。B1宗の規則では、住職は宗教的活動の主宰者たる地位に留まり、住職の地位に基づき独自の財産的権限を有する事実は認められなかった。上告人は、住職の地位が代表役員の基本資格となるから確認の対象となると主張した。
あてはめ
1. 本件におけるB2寺の住職は、葬儀や教義宣布等の宗教的活動の主宰者たる地位に留まり、独自の財産的権限を有しない。したがって、住職たる地位の存否は単なる宗教上の地位の争いにすぎず、具体的な法律関係の確認を求めるものとはいえない。代表役員の資格と関係があるとしても、結論を左右しない。2. 他方、B2寺による不動産引渡請求は、所有権に基づく具体的な権利の主張であり、法律上の争訟に当たる。この請求の当否を判断する前提として、上告人が罷免により住職の地位(占有権原)を失ったか否かを判断することは、教義の解釈にわたらない限り可能であり、法的な審判の範囲内である。
結論
1. 住職たる地位の確認を求める訴えは、不適法として却下される。2. 不動産引渡請求の前提として住職罷免の効力を判断することは適法であり、本件罷免を有効とした原審の判断は維持される。
実務上の射程
宗教上の地位そのものの確認請求は「訴えの利益(または対象」を欠くとして却下されるが、給付の訴え等の前提問題(先決問題)として現れる場合には、教義に踏み込まない範囲で司法審査が可能であるという「部分社会の法理」や「審判権の限界」に関する基本的な判断枠組みを示すものである。
事件番号: 平成8(オ)754 / 裁判年月日: 平成11年9月28日 / 結論: 棄却
宗教法人の代表役員及び責任役員の地位にあることの確認を求める訴えにおいて、紛争の経緯及び当事者双方の主張に照らせば、請求の当否を決する前提問題である住職罷免処分の効力の有無については宗教団体内部における教義及び信仰の内容が本質的な争点となるものであり、これを判断するには、裁判所が宗教上の教義及び信仰の内容について一定の…
事件番号: 昭和61(オ)944 / 裁判年月日: 平成元年9月8日 / 結論: 棄却
甲が乙宗教団体から受けた擯斥処分によりその僧侶たる地位を喪失したか否かが、自己が乙の被包括宗教団体である丙の代表役員及び責任役員の地位にあることの確認を求める甲の請求の前提をなしている場合において、右処分の効力の有無が紛争の本質的争点をなすとともに、その効力についての判断が訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものであり、…
事件番号: 昭和61(オ)943 / 裁判年月日: 平成元年9月8日 / 結論: 棄却
具体的な権利義務ないし法律関係に関する訴訟であつても、宗教団体内部においてされた懲戒処分の効力が請求の当否を決する前提問題となつており、その効力の有無が当事者間の紛争の本質的争点をなすとともに、それが宗教上の教義、信仰の内容に深くかかわつているため、右教義、信仰の内容に立ち入ることなくしてその効力の有無を判断することが…