具体的な権利義務ないし法律関係に関する訴訟であつても、宗教団体内部においてされた懲戒処分の効力が請求の当否を決する前提問題となつており、その効力の有無が当事者間の紛争の本質的争点をなすとともに、それが宗教上の教義、信仰の内容に深くかかわつているため、右教義、信仰の内容に立ち入ることなくしてその効力の有無を判断することができず、しかも、その判断が訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものである場合には、右訴訟は、裁判所法三条にいう法律上の争訟に当たちない。
宗教団体内部においてされた懲戒処分の効力を前提問題とする具体的な権利義務ないし法律関係に関する訴訟と裁判所法三条にいう法律上の争訟
裁判所法3条
判旨
具体的な権利義務に関する紛争であっても、宗教団体の懲戒処分の効力が争点の本質をなし、その判断に教義や信仰の内容への立ち入りが不可欠な場合には、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらない。教義の解釈を要する事項について裁判所は審判権を有さず、中立を保つべきであるため、当該訴えは不適法として却下される。
問題の所在(論点)
建物の明渡請求という具体的な法律関係を目的とする訴訟において、その前提となる宗教上の懲戒処分の効力(教義解釈が不可避な事項)が争点となっている場合、裁判所法3条1項の「法律上の争訟」として審理・判断できるか。
規範
裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」とは、①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であり、かつ②法令の適用により終局的に解決することができるものをいう。具体的な法律関係に関する訴えであっても、宗教団体内部の懲戒処分の効力が請求の前提かつ紛争の本質的争点であり、その効力が教義・信仰の内容に深く関わっていて、これに立ち入ることなくして判断できない場合には、法令の適用による終局的解決に適しないため、同条の「法律上の争訟」に当たらない。
重要事実
事件番号: 昭和61(オ)944 / 裁判年月日: 平成元年9月8日 / 結論: 棄却
甲が乙宗教団体から受けた擯斥処分によりその僧侶たる地位を喪失したか否かが、自己が乙の被包括宗教団体である丙の代表役員及び責任役員の地位にあることの確認を求める甲の請求の前提をなしている場合において、右処分の効力の有無が紛争の本質的争点をなすとともに、その効力についての判断が訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものであり、…
包括宗教法人Dは、被上告人の言説が本尊観や血脈相承に関する教義を否定する「異説」に当たるとして、僧籍剥奪(擯斥処分)を行った。被上告人は当該法人の被包括寺院の住職であり、代表役員の地位にあったが、この処分に伴い住職等の地位を喪失した。上告人(寺院法人)は、被上告人が代表役員の地位を失い建物の占有権原を喪失したとして、所有権に基づき建物の明渡しを求めて提訴した。被上告人は、擯斥処分が教義上の懲戒事由を欠き無効であると主張して争った。
あてはめ
本件建物の明渡請求の帰趨は、被上告人が代表役員の地位を喪失したか、すなわち本件擯斥処分が有効かどうかにかかっている。この処分の有効性を判断するには、被上告人の言説が「異説」に該当するかという宗教上の教義、信仰の是非を判断することが不可欠である。かかる教義の判断は、経済的・市民的社会事象とは異質のものであり、裁判所が介入すべきではない信教の自由(憲法20条)に関わる事項である。したがって、本件紛争は教義の内容に立ち入ることなくして解決できず、実質的に法令の適用による終局的解決に適しない。
結論
本件訴訟は「法律上の争訟」に該当せず、裁判所は審判権を有しない。よって、訴えは不適法であり却下すべきである。
実務上の射程
宗教法人の代表役員の地位確認や建物明渡請求など、形式的に「法律上の争訟」の形をとっていても、実質的な争点が教義の正誤や宗教上の適格性に深く関わる場合には、本判決の法理により却下を導くことができる。答案では、単に宗教が絡むから不適法とするのではなく、教義への立ち入りが「必要不可欠」か、「手続上の瑕疵」のみで判断可能かを見極めて論じる必要がある。
事件番号: 平成8(オ)754 / 裁判年月日: 平成11年9月28日 / 結論: 棄却
宗教法人の代表役員及び責任役員の地位にあることの確認を求める訴えにおいて、紛争の経緯及び当事者双方の主張に照らせば、請求の当否を決する前提問題である住職罷免処分の効力の有無については宗教団体内部における教義及び信仰の内容が本質的な争点となるものであり、これを判断するには、裁判所が宗教上の教義及び信仰の内容について一定の…
事件番号: 平成2(オ)1231 / 裁判年月日: 平成5年7月20日 / 結論: 棄却
宗教法人がその所有する建物の明渡しを求める訴訟において、訴訟が提起されるに至った紛争の経緯及び当事者双方の主張並びに訴訟の経過に照らして、当該訴訟の争点を判断するには、宗教上の教義ないし信仰の内容について一定の評価をすることを避けることができない場合には、右の明渡しを求める訴えは、裁判所法三条にいう「法律上の争訟」に当…