不動産の引渡請求権者は、目的不動産についてされた債務者の処分行為を詐害行為として取り消す場合に、直接自己に対する所有権移転登記手続を請求することはできない。
不動産の引渡請求権者が債務者による目的不動産の処分行為を詐害行為として取り消す場合と自己に対する所有権移転登記手続請求の可否
民法424条,民法425条
判旨
特定物債権者は、債務者が目的物を処分し無資力となった場合には詐害行為取消権を行使できるが、直接自己への所有権移転登記を求めることはできない。
問題の所在(論点)
特定物債権を被保全債権として詐害行為取消権を行使する場合、債権者は取消請求に伴い、債務者を経由せずに直接自己への所有権移転登記を求めることができるか。
規範
1. 特定物引渡請求権(特定物債権)は、最終的に損害賠償債権に変じうるものであり、債務者の一般財産により担保される必要があるため、民法424条の被保全債権となり得る。 2. もっとも、詐害行為取消権は総債権者のための「共同担保の保全」を目的とする制度であるから、特定物債権者が目的物そのものの直接的な引渡しや自己への直接の所有権移転登記を求めることは、制度の趣旨に照らし許されない。
重要事実
上告人は、死因贈与契約に基づき本件不動産の所有権移転登記請求権(特定物債権)を有していた。しかし、贈与者(債務者)が本件不動産を第三者に処分したため、上告人は当該処分行為が詐害行為に該当すると主張し、詐害行為取消権に基づき、直接自己への所有権移転登記を求めて提訴した。原審は、直接の登記請求は認めず、また履行不能による損害賠償額の算定において、一部の価格評価を誤った状態で算出した。
事件番号: 昭和35(オ)1017 / 裁判年月日: 昭和36年12月12日 / 結論: 棄却
書面によらない贈与による権利の移転を認める判決が確定した後は、既判力の効果として民法第五五〇条による取消権を行使して右贈与による権利の存否を争うことは許されない。
あてはめ
本件において、上告人が有する特定物債権は、債務者の処分行為により無資力となった場合には、金銭債権と同様に一般財産による担保が必要となるため、取消権の被保全債権となり得る。しかし、詐害行為取消権の本質は、逸失した財産を債務者の責任財産(共同担保)に回復させることにあり、特定の債権者に優先的弁済を与える制度ではない。したがって、上告人が目的物自体の所有権を直接自己に移転させるよう求めることは、共同担保の保全という枠組みを逸脱するものであり、認められないと評価される。
結論
特定物債権者は、詐害行為取消権に基づき直接自己への所有権移転登記を求めることはできない。原判決のこの判断は正当である。
実務上の射程
特定物債権であっても金銭債権化の可能性を根拠に被保全債権性を認める(通説・判例)。答案上、行使の帰結としては、責任財産の回復(債務者への登記回復)を求めるにとどまる点に注意する。金銭債権の場合の直接交付(事実上の優先弁済)と混同しないよう書き分ける必要がある。
事件番号: 昭和36(オ)826 / 裁判年月日: 昭和39年1月30日 / 結論: 破棄差戻
特定物引渡請求権を有する者も、その目的物を債務者が処分することにより無資力となつた場合には、右処分行為を詐害行為として取り消すことができるものと解すべきである。
事件番号: 昭和39(オ)523 / 裁判年月日: 昭和42年10月27日 / 結論: 破棄自判
一 他人の債務のため自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供した者は、右債務の消滅時効を援用することができる。 二 債務者の時効の利益の放棄は、当該債務のため自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供した者に影響を及ぼさない。
事件番号: 昭和33(オ)705 / 裁判年月日: 昭和36年1月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買代金の支払方法に関する契約において、買主が残代金の大部分を期日に弁済しなかったことにより、担保の目的物たる山林の所有権が確定的に売主に帰属するとした原審の判断を適法として維持した。 第1 事案の概要:上告人(買主)と被上告人(売主)は、土地の売買契約を締結したが、その代金支払方法について、残代…