一 外国人は、憲法上、わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されていない。 二 出入国管理令二一条三項に基づく在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由の有無の判断は「法務大臣の裁量に任されているものであり、上陸拒否事由又は退去強制事由に準ずる事由に該当しない限り更新を不許可にすることが許されないものではない。 三 裁判所は、出入国管理令二一条三項に基づく法務大臣の在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由の有無の判断についてそれが違法となるかどうかを審査するにあたつては、右判断が法務大臣の裁量権の行使としてされたものであることを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それが認められる場合に限り、右判断が裁量権の範囲を超え又はその濫用があつたものとして違法であるとすることができる。 四 政治活動の自由に関する憲法の保障は、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても及ぶ。 五 外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、在留の許否を決する国の裁量を拘束するまでの保障すなわち、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情として斟酌されないことまでの保障を含むものではない。 六 上告人の本件活動は、外国人の在留期間中の政治活動として直ちに憲法の保障が及ばないものであるとはいえないが、そのなかにわが国の出入国管理政策に対する非難行動あるいはわが国の基本的な外交政策を非難し日米間の友好関係に影響を及ぼすおそれがないとはいえないものが含まれており、法務大臣が右活動を斟酌して在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるものとはいえないと判断したとしても、裁量権の範囲を超え又はその濫用があつたものということはできない。
一 外国人のわが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利と憲法の保障の有無 二 出入国管理令二一条三項に基づく在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由の有無の判断と法務大臣の裁量権 三 出入国管理令二一条三項に基づく法務大臣の在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由の有無についての判断と裁判所の審査の限界 四 わが国に在留する外国人と政治活動の自由に関する憲法の保障 五 外国人に対する憲法の基本的人権の保障と在留の許否を決する国の裁量に対する拘束の有無 六 外国人の在留期間中の憲法の保障が及ばないとはいえない政治活動を斟酌して在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由がないとした法務大臣の判断が裁量権の範囲を超え又はその濫用があつたものということはできないとされた事例
憲法第3章,憲法19条,憲法21条,憲法22条1項,出入国管理令21条3項,行政事件訴訟法30条
判旨
憲法上の基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみを対象とするものを除き外国人にも及ぶが、在留期間更新の許否に関する法務大臣の広範な裁量を拘束するものではない。法務大臣が在留外国人の政治活動を不当と評価し、更新を不許可としても、事実の基礎を欠くか社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかでない限り、裁量権の逸脱・濫用とはならない。
事件番号: 平成6(行ツ)183 / 裁判年月日: 平成8年7月2日 / 結論: 棄却
出入国管理及び難民認定法別表第二所定の「日本人の配偶者等」の在留資格をもって本邦における在留を継続していた外国人につき、法務大臣が、右外国人と日本人である配偶者とが長期間にわたり別居していたことなどから、右外国人の本邦における活動は、日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当しないと判断し、右外国人の意に反して、…
問題の所在(論点)
1. 外国人に対し、憲法上の政治活動の自由が保障されるか。2. 法務大臣が外国人の政治活動を消極的事由として考慮し、在留期間更新を不許可とすることは、裁量権の逸脱・濫用にあたるか。
規範
1. 憲法22条1項は外国人の入国・在留の権利を保障しておらず、国際慣習法上、国家は外国人の受入れを自由に決定できる。そのため、出入国管理法21条3項に基づく在留期間更新の許否は法務大臣の広範な裁量に委ねられる。2. 外国人の人権は、わが国の政治的意思決定に影響を及ぼす活動等を除き保障されるが、それは在留制度の枠内での保障にすぎない。したがって、合憲合法な行為であっても、在留更新時に消極的事由として斟酌し得る。3. 裁判所は、判断の基礎となった重要事実に誤認があるか、事実に対する評価が明白に合理性を欠き、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り、裁量権の逸脱・濫用(行政事件訴訟法30条)として違法と判断する。
重要事実
アメリカ国籍の外国人である上告人は、在留資格「特定の在留資格」に基づき英語教師として入国したが、当初の勤務先を17日間で退職し、無届で別の財団法人に転職した。また、在留期間中にベトナム反戦運動を行う「外国人ベ平連」に所属し、デモ、ビラ配布、米国大使館への抗議行動、入国者収容所への示威行進等の政治活動に参加した。これらの活動は平和的・合法的な範囲内であり、指導的なものではなかったが、法務大臣はこれらの一切の行状を重視し、在留期間の更新を不許可とした(本件処分)。
あてはめ
上告人の政治活動は、憲法の保障が及ばないものとはいえない。しかし、その内容にはわが国の出入国管理政策や外交政策に対する非難、抗議が含まれており、日米間の友好関係に影響を及ぼすおそれがないとはいえない。法務大臣がこれらの活動を日本国にとって好ましくないと評価し、将来的に利益を害するおそれがあると認めて更新を拒絶したことは、事実の評価が明白に合理性を欠くとはいえず、社会通念上著しく妥当性を欠くことも明らかではない。
結論
本件処分は法務大臣の裁量権の範囲内であり、適法である。上告人の請求を棄却する。
実務上の射程
行政法の「裁量権の逸脱・濫用」の審査密度を示すリーディングケースであり、特に「事実の基礎を欠くか、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らか」という枠組み(マクリーン基準)を提示した点に意義がある。憲法論としては「権利の性質説」に基づき外国人の人権享有権を認めつつも、在留制度の枠内での制約を肯定するロジックとして重要である。
事件番号: 昭和53(行ツ)127 / 裁判年月日: 昭和55年3月7日 / 結論: 棄却
ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く外務省関係諸命令の措置に関する法律二条六項は出入国管理令二四条の適用を排除するものではない。
事件番号: 平成6(行ツ)153 / 裁判年月日: 平成10年4月10日 / 結論: 棄却
法務大臣が、日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法一条の規定に基づく許可を受けて本邦で永住することができる地位を有していた者に対し、外国人登録法(昭和六二年法律第一〇二号による改正前のもの)一四条一項に基づく指紋の押なつを拒否していることを理由とし…
事件番号: 昭和34(オ)400 / 裁判年月日: 昭和35年4月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法務大臣による在留特別許可の付与は自由裁量に属し、在留期間経過後の外国人に対する退去強制手続が人道上極めて残虐で公序良俗に反するとは認められない限り、憲法にも違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、在留許可期間が経過した後も日本国内に在留していた外国人である。これに対し当局が退去強制令書を発付し…
事件番号: 平成1(行ツ)2 / 裁判年月日: 平成4年11月16日 / 結論: 棄却
我が国に在留する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されていない。