法務大臣が、日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法一条の規定に基づく許可を受けて本邦で永住することができる地位を有していた者に対し、外国人登録法(昭和六二年法律第一〇二号による改正前のもの)一四条一項に基づく指紋の押なつを拒否していることを理由としてした再入国不許可処分は、当時の社会情勢や指紋押なつ制度の維持による在留外国人及びその出入国の公正な管理の必要性など判示の諸事情に加えて、再入国の許否の判断に関する法務大臣の裁量権の範囲がその性質上広範なものとされている趣旨にもかんがみると、右不許可処分が右の者に与えた不利益の大きさ等を考慮してもなお、違法であるとまでいうことはできない。
いわゆる協定永住許可を受けていた者に対してされた指紋押なつ拒否を理由とする再入国不拒可処分が違法とはいえないとされた事例
行政事件訴訟法30条,出入国管理及び難民認定法26条1項,外国人登録法(昭和62年法律102号による改正前のもの)14条1項,日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法1条
判旨
法務大臣による再入国の許可(入管法26条)は広範な裁量に属し、指紋押なつ拒否者に対し原則不許可とする運用も、当時の社会情勢や制度維持の必要性に照らし、合理性を欠くとはいえない。協定永住者の生活の安定という観点を考慮しても、不許可処分が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかでない限り、裁量権の逸脱・濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
再入国許可申請(入管法26条1項)に対する法務大臣の裁量権の範囲、および指紋押なつ拒否を理由とする不許可処分が裁量権の逸脱・濫用に該当するか。
規範
再入国の許可は、法務大臣が我が国の国益保持や出入国の公正な管理の観点から、申請者の在留状況、渡航目的・必要性、内外の諸情勢等を総合的に勘案して決すべき広範な裁量に委ねられている。したがって、その処分は、判断が全く事実の基礎を欠くか、又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り、裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとして違法となる。
事件番号: 平成6(行ツ)152 / 裁判年月日: 平成10年4月10日 / 結論: 破棄自判
再入国不許可処分を受けた者が本邦から出国した場合には、右不許可処分の取消しを求める訴えの利益は失われる。
重要事実
韓国籍の永住者(協定永住資格)である上告人は、外国人登録法に基づく指紋押なつを拒否していた。上告人が米国留学のために再入国許可申請をした際、法務大臣は、当時全国的に拡大していた指紋押なつ拒否運動への対応策として「拒否者には原則許可を与えない」という方針に基づき、不許可処分とした。上告人は、許可を得ないまま出国したことで永住資格を喪失し、不許可処分が違法であるとして国家賠償を請求した。
あてはめ
本件不許可処分は上告人に永住資格喪失という重大な不利益を課すものであり、協定永住者の生活の安定という観点もしんしゃくされるべきである。しかし、指紋押なつ制度は人物特定の確実な手段として出入国管理の適正に資するものであり、拒否者に不許可で臨む方針には必要性と合理性が認められる。また、当時は拒否運動が社会問題化しており、制度維持のために統一的な運用を行うこともやむを得ない側面があった。上告人が執拗に拒否を継続していた事情も併せれば、法務大臣の判断が社会通念上著しく妥当性を欠くとは断じがたい。
結論
本件不許可処分は法務大臣の裁量権の範囲内であり、違法とはいえないため、国家賠償請求は棄却される。
実務上の射程
マクリーン事件判決の流れを汲む、外国人の出入国管理における行政側の広範な裁量を認めた重要判例である。特に「永住者」という特別な法的地位にある者に対しても、行政目的(指紋制度の維持)の必要性が優先される場面があることを示しており、裁量審査の限界を論じる際の基準として活用できる。
事件番号: 平成1(行ツ)2 / 裁判年月日: 平成4年11月16日 / 結論: 棄却
我が国に在留する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されていない。
事件番号: 平成6(行ツ)183 / 裁判年月日: 平成8年7月2日 / 結論: 棄却
出入国管理及び難民認定法別表第二所定の「日本人の配偶者等」の在留資格をもって本邦における在留を継続していた外国人につき、法務大臣が、右外国人と日本人である配偶者とが長期間にわたり別居していたことなどから、右外国人の本邦における活動は、日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当しないと判断し、右外国人の意に反して、…
事件番号: 昭和50(行ツ)120 / 裁判年月日: 昭和53年10月4日 / 結論: 棄却
一 外国人は、憲法上、わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されていない。 二 出入国管理令二一条三項に基づく在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由の有無の判断は「法務大臣の裁量に任されているものであり、上陸拒否事由又は退去強制事由に準ずる事由に該当しない限り更新を不許可にすること…
事件番号: 昭和34(オ)400 / 裁判年月日: 昭和35年4月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法務大臣による在留特別許可の付与は自由裁量に属し、在留期間経過後の外国人に対する退去強制手続が人道上極めて残虐で公序良俗に反するとは認められない限り、憲法にも違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、在留許可期間が経過した後も日本国内に在留していた外国人である。これに対し当局が退去強制令書を発付し…