既存の著作物に接する機会がなかつたためその存在、内容を知らないでこれと同一性のある作品を作成した者は、右著作物の存在、内容を知らなかつたことにつき過失があると否とにかかわらず、著作権侵害の責任を負わない。
既存の著作物を知らないでこれと同一性のある作品を作成した者と著作権侵害の責任
旧著作権法(明治32年法律第39号)1条,旧著作権法(明治32年法律第39号)29条
判旨
著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう。既存の著作物に接する機会がなく、その存在や内容を知らなかった者は、過失の有無を問わず依拠したとはいえず、著作権侵害の責任を負わない。
問題の所在(論点)
著作権法上の「複製」の意義、特に既存の著作物と内容が類似する作品が作成された場合に、著作権侵害が成立するために「依拠性」が必要か、またその判断基準が問題となる。
規範
著作権法上の「複製」にあたるためには、①既存の著作物に依拠していること、および②その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製すること(同一性・類似性)が必要である。①の「依拠」については、既存の著作物に接して、その存在・内容を知っていることが前提となる。したがって、既存の著作物に接する機会がなく、その存在・内容を知らなかった者は、これを知らなかったことにつき過失があるか否かにかかわらず、依拠したことにはならず、複製にもあたらない。
重要事実
上告人の楽曲(甲曲)と被上告人が作曲した楽曲(乙曲)について、旋律の動機部分に類似が認められた。甲曲は当時一部の専門家に知られていたが、著名とまではいえなかった。被上告人は放送局に勤務しレコード・楽譜の膨大なコレクションに接し得る立場にあり、音楽番組の企画制作責任者であったが、乙曲作曲当時に甲曲の存在を知っていたとする特段の事情はなかった。また、類似部分は流行歌によく用いられる音型であり、偶然の類似の可能性も否定できなかった。
あてはめ
被上告人が勤務環境上、多くの楽曲に接し得る地位にあったとしても、甲曲が一般的著名性を欠く以上、現に甲曲に接したことや接する機会があったことを直ちに推認することは困難である。また、類似部分が流行歌に一般的な音型であるという事実は、依拠ではなく偶然の類似である可能性を支える。よって、被上告人が甲曲を知っていたとする特段の事情がない限り、甲曲に依拠して乙曲が作成されたとは認められない。
結論
被上告人が甲曲に依拠して乙曲を再製したとはいえないため、著作権侵害は成立しない。
実務上の射程
著作権侵害(複製権侵害)の要件として「依拠性」が必要であることを明示したリーディングケースである。答案上は、作品間の類似性が認められる場合であっても、被告が原告作品を知り得たか(接触の可能性)という事実認定のプロセスで、本判決の枠組み(著名性、職務環境、偶然の類似の可能性等)を用いるべきである。
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