1 言語の著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。 2 思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の言語の著作物と同一性を有するにすぎない著作物を創作する行為は,既存の著作物の翻案に当たらない。
1 言語の著作物の翻案の意義 2 表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の言語の著作物との同一性を有する著作物を創作する行為と翻案
著作権法2条1項1号,著作権法27条,著作権法第7章権利侵害
判旨
言語の著作物の翻案とは、既存の著作物の「表現上の本質的な特徴」を直接感得できる別の著作物を創作する行為を指し、アイデアや事実、創作性のない部分において同一性があるにすぎない場合は翻案に当たらない。
問題の所在(論点)
既存の著作物の記述内容や順序と共通する後発著作物を創作する行為が、著作権法27条の「翻案」に該当するための要件、および「アイデア」や「事実」の共通性が翻案に当たるか。
規範
翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。著作権法は思想又は感情の創作的な「表現」を保護するものであるから、既存の著作物に依拠していても、①思想・感情・アイデア・事実等の表現それ自体でない部分、または②表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらない。
重要事実
ノンフィクション書籍の著者である被上告人が、テレビ番組を製作した上告人に対し、番組内のナレーションが書籍のプロローグ部分を翻案したものであるとして、著作権侵害等を理由に損害賠償を請求した。プロローグとナレーションは、江差町がかつてニシン漁で栄えたこと、現在は衰退していること、9月の追分大会でかつての賑わいを取り戻すこと、という記述順序や内容において共通していた。原審は、9月の大会が1年で最も賑わうとする捉え方は著者の特有の認識であり創作的表現にあたるとして、翻案権侵害を認めた。
あてはめ
まず、ニシン漁の繁栄と衰退という事実は一般的知見に属する「事実」であって表現それ自体ではない。次に、9月の大会が町の絶頂であるとする認識は、著者に特有の認識であっても「アイデア」の域を出るものではなく、同じ認識を表明することは禁止されない。また、記述の順序についても独創的とはいえず「表現上の創作性」が認められない。最後に、具体的表現を比較すると両者は異なっており、ナレーション全体も格段に短く、映像と共に放送されたものである。以上から、共通部分は表現それ自体でない部分や創作性がない部分にすぎず、ナレーションから本件著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
結論
本件ナレーションは、本件著作物を翻案したものとはいえず、著作権(翻案権・放送権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害しない。
実務上の射程
著作権法における「表現」と「アイデア」の区別(アイデア・表現二分論)を明確にしたリーディングケースである。答案では、依拠性がある場合でも、共通部分が「事実・アイデア(表現でない部分)」か「ありふれた表現(創作性がない部分)」かを峻別し、後者の場合は「本質的な特徴を直接感得」できないとして侵害を否定する論理として用いる。
事件番号: 平成13(オ)851 / 裁判年月日: 平成14年9月24日 / 結論: 棄却
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事件番号: 平成9(オ)411 / 裁判年月日: 平成11年10月26日 / 結論: その他
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