一、国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約(昭和二八年条約第一七号。右条約を改正する議定書(昭和四二年条約第一一号)による改正前のもの)二五条一項にいう「訴が係属する裁判所の属する国の法律によれば故意に相当すると認められる過失」とは、我が国の法律上、「重大な過失」を意味するものと解すべきである。 二、航空運送人が葉書大で厚さ一〇センチメートルの木箱に入つたダイヤモンドにつきニューヨークから東京までの運送を委託され、その運送のため、右木箱に貴重品であることを示すレッド・スクエアー(赤色の四角形のマーク)を印し、航空運送状を添付したうえ、これを、行先札を付したオニオン・サック(赤色の網袋)に入れ、一見して木箱の到達地が東京であることを認識できる状態で旅客機の貨物室に積載したのにもかかわらず、右航空運送人の使用人が途中で手違いにより積み残し又は荷下ろししたため、木箱がオニオン・サックごと滅失した場合には、右木箱の滅失について、右使用人に重大な過失があるというべきである。
一、国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約(昭和二八年条約第一七号。右条約を改正する議定書(昭和四二年条約第一一号)による改正前のもの)二五条一項にいう「故意に相当すると認められる過失」の意義 二、国際航空運送貨物の運送中における滅失について航空運送人の使用人に重大な過失があるとされた事例
国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約(昭和28年条約第17号。国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約を改正する議定書(昭和42年条約第11号)による改正前のもの)25条,商法581条,商法766条,国際海上物品運送法20条2項
判旨
ワルソー条約25条の「故意に相当すると認められる過失」とは、我が国の法上「重大な過失」を意味し、運送人の使用人が職務上の重過失により貨物を滅失させた場合、運送人は有限責任規定を援用できず、全損害を賠償すべきである。
問題の所在(論点)
国際航空運送において、貨物が滅失した場合の運送人の責任に関し、ワルソー条約25条に規定される「故意に相当すると認められる過失」の意義、および同条が適用されるための要件が問題となる。
規範
1. ワルソー条約25条にいう「故意に相当すると認められる過失」の意義は、法廷地法に委ねられており、我が国の法律上は「重大な過失」を意味すると解するのが相当である。 2. 運送人の使用人が職務を行うに当たり、重大な過失によって貨物を滅失させたときは、同条約22条等の有限責任に関する規定の適用は排除され、運送人は全損害を賠償する義務を負う。 3. 右規定は、荷送人が高価品の価額を申告せず、増料金を支払っていない場合であっても適用される。
重要事実
1. 被上告人は、上告会社(航空運送人)に対し、ダイヤモンド9石が入った木箱のニューヨークから東京への航空運送を委託した。 2. 上告会社は当該木箱に貴重品マークを付し、網袋(オニオン・サック)に入れて航空機に積載したが、東京到着時に紛失が判明した。 3. 紛失の原因は、従業員による窃取か、あるいは手違いによる積残しまたは荷下ろしによるものであった。 4. 運送契約にはワルソー条約が適用され、同条約は原則として責任限度額を規定しているが、故意・重過失(25条)がある場合にはその適用を排除している。
あてはめ
1. 紛失の原因が従業員による「窃取」であれば、故意による滅失として当然に責任制限は排除される。 2. 仮に「手違いによる積残し・荷下ろし」であったとしても、当該木箱は到達地や荷受人が一見して認識できる状態で網袋に入れられていた。わずかな注意を払えば手違いであることは容易に判明したはずであり、有害な結果(滅失)の発生も予見可能であったといえる。 3. このような状況下で見過ごしたことは、著しく注意を欠如した「重大な過失」にあたる。したがって、上告会社は責任制限を援用できず、全損害の賠償義務を負う。
結論
ワルソー条約25条の過失は「重過失」を指す。本件の滅失は従業員の故意または重過失によるものであるから、上告会社は責任制限の規定を援用できず、全損害を賠償すべきである。
実務上の射程
条約上の「故意に相当する過失」を国内法の「重過失」と等置した点に意義がある。商法上の責任制限(商法592条等)や、公権力の行使に基づく損害賠償、私法上の免責特約の解釈において、「重過失」をいかに認定すべきかの判断枠組み(予見可能性と著しい注意欠如)として答案上活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)211 / 裁判年月日: 昭和34年3月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】運送取扱人は、運送品の滅失、損傷又は延着について、自ら又はその使用人が運送の受取、引渡し、保管、運送人の選択その他運送に関して注意を怠らなかったことを証明しなければ、損害賠償責任を免れることができない。 第1 事案の概要:上告人(運送取扱人)が介入した運送において、何らかの損害(詳細な事故態様は判…