不在者投票を投票所の閉鎖時刻までに投票管理者に送致せず、違法にその効力を失わしめたことは、選挙無効の原因となりうる。
不在者投票の送致の違法と選挙の効力
公職選挙法49条,公職選挙法205条1項,公職選挙法施行令60条,公職選挙法施行令65条
判旨
不在者投票の送致遅延により有効な投票が得票計算から排除された場合、それが選挙の管理執行の手続に関する規定の違反に当たり、かつ選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるときは、公職選挙法205条1項に基づき選挙全体が無効となる。
問題の所在(論点)
不在者投票の送致遅延により有効な投票が得票計算から排除された場合が、公職選挙法205条1項の「選挙の規定に違反」に該当し、選挙無効の原因となるか。また、その影響が一部の当落に限定される場合でも選挙全体が無効となるか。
規範
公職選挙法205条1項にいう「選挙の規定に違反」とは、選挙の管理執行の手続に関する規定の違反をいう。この違反に基づき、選挙が無効となるためには、当該違反により「選挙の結果に異動を及ぼす虞(おそれ)」があることを要する。これは、有効たるべき投票が得票計算から不当に排除された場合においても同様であり、その影響が特定の候補者の当落に限定されるか否かによって結論が左右されるものではない。
重要事実
青森県田子町議会議員選挙において、選挙管理委員長が31票の不在者投票を投票所の閉鎖時刻までに投票管理者に送致することが可能であったにもかかわらず、閉鎖時刻後に送致した。このため、当該31票は不当に無効として扱われた。なお、本件選挙における最下位当選者と最高位落選者との得票差は6票であった。
事件番号: 昭和35(オ)1467 / 裁判年月日: 昭和36年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法205条1項にいう「選挙の規定」とは主として選挙の管理執行に関する規定を指し、当選人決定の際の被選挙権の有無の判断に誤りがある場合は、選挙無効の訴えの対象にはならない。 第1 事案の概要:本件選挙において、選挙会は訴外Dに被選挙権がないものと判断し、同人を当選人と定めなかった。上告人は、…
あてはめ
まず、不在者投票を閉鎖時刻までに送致しなかったことは、選挙の管理執行手続に関する規定違反であり、「選挙の規定に違反」に該当する。次に、排除された不在者投票は31票であり、最下位当選者と最高位落選者の得票差である6票を大きく上回っている。したがって、これらの投票が適正に計算されていれば当選者が入れ替わっていた可能性があり、「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があるといえる。原審は一部の当落への影響にとどまるとして当選無効事由と解したが、選挙手続の適正を欠く以上、選挙全体が無効とされるべきである。
結論
本件不在者投票の送致遅延は選挙無効の原因となる。したがって、選挙全体を無効とした裁決は正当であり、被上告人らの請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
選挙無効(205条)と当選無効(206条)の区別が問題となる場面で活用できる。手続的違法が一部の候補者の当落に関わる場合であっても、客観的に選挙結果を覆す可能性がある数(得票差以上の数)の違法投票が存在すれば、選挙無効事由となることを示した。行政法・公職選挙法の答案において、客観的訴訟の性質と手続の適正性を論じる際の基準となる。
事件番号: 昭和37(オ)697 / 裁判年月日: 昭和37年12月26日 / 結論: 棄却
一 証明書を提出することができない理由記載欄に「証明者なし」と記載した選挙人自身が作成した疎明書と題する書面を提出しただけでは、公職選挙法施行令第五二条第三項の疎明があつたとはいえない。 二 不在者の投票用封筒の表面および裏面またはそのいずれかに公職選挙法施行令第五六条第六〇条所定事項の記載のない投票は、受理すべきでな…
事件番号: 昭和36(オ)265 / 裁判年月日: 昭和36年7月20日 / 結論: 棄却
選挙長は、立候補届出または候補者推薦届出の受理に際し、文書につき形式的な審査をしなければならないが、候補者が被選挙権を有するか否か等実質的な審査をする権限を有しない。
事件番号: 昭和33(オ)405 / 裁判年月日: 昭和33年8月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】補充選挙人名簿の調製手続に重大な違法があり同名簿が無効となる場合、たとえ基本選挙人名簿が有効であっても、その選挙区における選挙は全部無効となる。また、この違法は選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるものとして、公職選挙法205条1項に基づき選挙無効の原因となる。 第1 事案の概要:町議会議員選挙にお…
事件番号: 昭和48(行ツ)50 / 裁判年月日: 昭和48年10月11日 / 結論: 棄却
市町村の議会の議員または長の選挙において、選挙人名簿に公職選挙法二七条一項に基づき当該市町村から他市町村へ転出した旨の表示をされている者に対し、右の表示が誤つていることを明らかにする資料の提出等によりその住所要件の存在を確認しうるというような特別の事情がないのに、投票を許すことは、選挙無効の原因となりうる。