市町村の議会の議員または長の選挙において、選挙人名簿に公職選挙法二七条一項に基づき当該市町村から他市町村へ転出した旨の表示をされている者に対し、右の表示が誤つていることを明らかにする資料の提出等によりその住所要件の存在を確認しうるというような特別の事情がないのに、投票を許すことは、選挙無効の原因となりうる。
市町村の議会の議員または長の選挙において選挙人名簿に公職選挙法二七条一項に基づき転出表示をされている者に対し投票を許した場合と選挙の効力
公職選挙法27条1項,公職選挙法44条,公職選挙法205条1項
判旨
選挙管理委員会による転出表示がなされた者に対し、投票事務従事者が特別の事情がないのに住所要件を審査せず投票を許したことは、選挙の管理執行の手続に関する規定に違反する。この違反が選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある場合、公職選挙法205条1項に基づき選挙は無効となる。
問題の所在(論点)
市町村の選挙において、転出表示がなされた者に対し住所要件を調査せず投票させたことが、公職選挙法205条1項の「選挙の規定に違反」にあたるか。
規範
公職選挙法205条1項の「選挙の規定に違反」とは、選挙の管理執行の手続に関する規定の違反を指す。地方公共団体の選挙において、選挙人名簿上の「転出表示」は住所要件審査の最も確実かつ重要な資料であるため、投票事務従事者は転出表示がある者に対し、住所要件を欠くものとして投票を拒否する義務を負う。ただし、表示が誤っていることを示す資料提示等により、住所要件の存在を確認しうる「特別の事情」がある場合に限り、投票を許容できる。この義務を怠り漫然と投票を許すことは、管理執行手続の規定違反にあたる。また、当該違反により選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあれば、選挙全体が無効となる。
重要事実
本件町議会議員選挙において、投票事務従事者は、選挙人名簿に転出表示がなされていた者らに対し、住所要件の存否を確認することなく漫然と投票を許した。原審によれば、これら転出表示者のうち12名については、選挙当時に町内に住所を有しておらず、住所要件を欠いていた。一方で、本件選挙の最下位当選者と最高位落選者の得票差はわずか9票であった。
事件番号: 昭和45(行ツ)56 / 裁判年月日: 昭和46年4月15日 / 結論: 破棄自判
不在者投票を投票所の閉鎖時刻までに投票管理者に送致せず、違法にその効力を失わしめたことは、選挙無効の原因となりうる。
あてはめ
本件では、投票事務従事者が転出表示を顧慮せず、住所要件の存在を確認できる「特別の事情」もないのに、12名の転出被表示者に漫然と投票を許している。これは選挙人名簿の正確性を担保し二重投票を防止する趣旨、および投票管理者の住所要件審査権能(公選法44条1項、9条2項等)に基づく管理執行上の義務に違反する。さらに、これら住所要件を欠く者による無効投票が12票生じており、落選者との得票差9票を上回っている。したがって、当該手続違反が「選挙の結果に異動を及ぼすおそれ」があることは明らかである。
結論
本件投票事務従事者の行為は、選挙の管理執行の手続に関する規定に違反し、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるため、本件選挙は無効である。
実務上の射程
選挙無効訴訟において、投票手続の「実質的」な不備(有権者資格の確認漏れ)が「手続規定の違反」に含まれることを明示した重要判例。住所要件を欠く投票数と得票差を比較して「異動のおそれ」を判断する答案構成のモデルとなる。なお、当選争訟の規定(209条の2)は手続違反がない場合にのみ適用される点も注意を要する。
事件番号: 昭和58(行ツ)148 / 裁判年月日: 昭和60年1月22日 / 結論: 破棄差戻
一 町選挙管理委員会が、公職選挙法二二条二項の規定により同町議会議員選挙の選挙時登録を行うに当たり、被登録資格の一つである住所要件につき、現実の移転を伴わない架空転入が大量にされたのではないかと疑うべき事情があるのに、調査対象者あてに文書照会をしたり、関係者の言い分を徴したのみで、右要件の有無を具体的事実に基づいて明ら…
事件番号: 昭和41(行ツ)59 / 裁判年月日: 昭和41年12月6日 / 結論: 棄却
一 不在者投票手続における投票の立会人は、当該市町村の選挙人名簿に登録された者一名のみで足りる。 二 不在者投票管理者が不在者投票を直ちにその選挙人の属する投票区の投票管理者に送致しなかつたとしても、それが投票所閉鎖時刻までに送致されている以上、選挙の効力に影響しない。 三 選挙人名簿に多数の無資格者が誤載されていたと…
事件番号: 昭和43(行ツ)92 / 裁判年月日: 昭和44年7月15日 / 結論: 棄却
いわゆる選挙の人的一部無効が認められるのは、公職選挙法二〇五条一項により選挙の地域的一部無効を生じ、その結果、同条二項以下の規定により選挙の人的一部無効を生ずる場合に限る。
事件番号: 昭和37(オ)697 / 裁判年月日: 昭和37年12月26日 / 結論: 棄却
一 証明書を提出することができない理由記載欄に「証明者なし」と記載した選挙人自身が作成した疎明書と題する書面を提出しただけでは、公職選挙法施行令第五二条第三項の疎明があつたとはいえない。 二 不在者の投票用封筒の表面および裏面またはそのいずれかに公職選挙法施行令第五六条第六〇条所定事項の記載のない投票は、受理すべきでな…