一 町選挙管理委員会が、公職選挙法二二条二項の規定により同町議会議員選挙の選挙時登録を行うに当たり、被登録資格の一つである住所要件につき、現実の移転を伴わない架空転入が大量にされたのではないかと疑うべき事情があるのに、調査対象者あてに文書照会をしたり、関係者の言い分を徴したのみで、右要件の有無を具体的事実に基づいて明らかにすることなく、被登録資格についての調査義務を一般的に怠つたと認められるときは、右登録の手続につきその全体に通ずる重大な瑕疵があるものとして、選挙時登録の全部が無効となる。 二 公職選挙法二二条二項の規定による選挙時登録の全部が無効である場合に右登録を含む選挙人名簿によつて行われた選挙は、同法二〇五条一項にいう選挙の規定に違反するものに当たる。
一 大量の架空転入を疑うべき事情があるのに転入者の住所の調査を一般的に怠つたと認められるときと選挙時登録の効力の有無 二 選挙時登録の全部が無効である場合に行われた選挙と公職選挙法二〇五条一項にいう選挙の規定違反
公職選挙法21条3項,公職選挙法205条1項,公職選挙法(昭和57年法律第81号による改正前のもの)22条2項,公職選挙法施行令10条
判旨
選挙人名簿の登録手続にその全体に通ずる重大な瑕疵があり登録全部が無効となる場合には、当該名簿を用いて行われた選挙は公職選挙法205条1項の「選挙の規定に違反する」ものにあたる。
問題の所在(論点)
選挙時登録において、選挙管理委員会が被登録資格(住所)の調査義務を怠り、大量の架空転入者を含めて登録を行ったことが、公職選挙法205条1項の「選挙の規定に違反する」事由にあたるか。
規範
1. 選挙時登録は選挙の管理執行手続とは別個のものであり、登録の瑕疵は原則として個別の異議申立等(公選法24条、25条)で争われるべきである。したがって、単なる調査の疎漏や個別の誤載があるだけでは「選挙の規定に違反する」(同法205条1項)とはいえない。 2. もっとも、登録手続の全体に通ずる重大な瑕疵により選挙人名簿自体が無効な場合において、その名簿を用いて選挙が行われたときは、同法205条1項の違反にあたる。 3. 具体的には、大量の架空転入を疑うべき事情がある際、選挙管理委員会が住所の有無を具体的事実に基づき明らかにせず、実質を欠く形式的な調査に終始して調査義務を一般的に怠ったときは、「全体に通ずる重大な瑕疵」があるものとして、登録全部が無効となる。
事件番号: 平成1(行ツ)167 / 裁判年月日: 平成2年4月12日 / 結論: 棄却
不在者投票の立会人が、立会いをしつつ併せて不在者投票事務の補助執行に従事していたため、立会人の監視機関としての役割を十分に果たすことができない状態にあったときは、その間にされた不在者投票は、公職選挙法四九条一項同法施行令五六条一項、二項の規定に違反した違法のものというべきである。
重要事実
滋賀県a町議会議員選挙において、通常月20人程度の転入者が、選挙前の2ヶ月間で計476人と異常に増加した。その多くが代理人による届出であり、一軒の世帯主に十数人が同居する態様であった。町選管は架空転入の指摘を受け実態調査を実施したが、文書照会に対する自己申告の確認や、本人に面接せず世帯主の言い分を徴するだけの訪問調査にとどまった。この登録を含む名簿を用いて選挙が執行されたため、選挙人らは選挙無効を求めて提訴した。
あてはめ
本件では、代理人による大量の転入届や一軒への多数同居といった、架空転入を強く疑うべき外形的・異常な事情が存在していた。このような状況下では、町選管には住所の有無を慎重に調査すべき義務があったといえる。しかし、実施された調査は文書照会や世帯主への形式的聴取に終始し、本人面接すら欠くものであった。これは、住所の有無を具体的客観的事実に基づき明らかにする「実質ある調査」とは評価できず、調査義務を一般的に怠ったものと解される。したがって、本件選挙時登録の手続にはその全体に通ずる重大な瑕疵があり、登録全部が無効となる結果、これを用いた選挙は「選挙の規定に違反する」といえる。
結論
町選管の調査義務懈怠により選挙時登録全部が無効であるならば、当該選挙は公選法205条1項に違反し、無効原因となる可能性がある。
実務上の射程
選挙人名簿の瑕疵が「選挙無効」の理由になり得るかという論点で必須の判例。原則(個別救済)と例外(全体的・重大な瑕疵)の二段構えで記述する。あてはめでは「大量の架空転入を疑うべき事情」と「調査の実質性の欠如」をリンクさせることがポイントとなる。
事件番号: 昭和42(行ツ)43 / 裁判年月日: 昭和42年9月28日 / 結論: 棄却
選挙人名簿調製機関が選挙人の補充選挙人名簿の登録申請を妨げた違法は、名簿の脱漏として、法定の選挙人名簿修正争訟によつて争うべきであり、選挙の無効の理由となるものではない。
事件番号: 昭和42(行ツ)20 / 裁判年月日: 昭和42年4月15日 / 結論: 棄却
選挙人、候補者、選挙運動者等の選挙の取締りないし罰則違反の行為は、公職選挙法第二〇五条第一項にいう選挙の規定違反にあたらないものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和48(行ツ)50 / 裁判年月日: 昭和48年10月11日 / 結論: 棄却
市町村の議会の議員または長の選挙において、選挙人名簿に公職選挙法二七条一項に基づき当該市町村から他市町村へ転出した旨の表示をされている者に対し、右の表示が誤つていることを明らかにする資料の提出等によりその住所要件の存在を確認しうるというような特別の事情がないのに、投票を許すことは、選挙無効の原因となりうる。
事件番号: 昭和27(オ)952 / 裁判年月日: 昭和28年3月19日 / 結論: 棄却
所論の不在投票用紙及び投票用封筒を交付するに際し選挙人名簿又は抄本と対照しなかつたという事実は原審も認めているけれども、しかし原判決の認定するところによれば、予め選挙人名簿に基き作成した投票所入場券を各地区の事情にもつとも通ずる駐在員をして選挙人名簿の抄本と対照して予め選挙人に交付してあり、不在者投票用紙及び投票用封筒…