妻が強度の精神病にかかり回復の見込みがない場合において、妻の実家が夫の支出をあてにしなければ療養費に事欠くような資産状態ではなく、他方、夫は、妻のため十分な療養費を支出できる程に生活に余裕がないにもかかわらず、過去の療養費については、妻の後見人である父との間で分割支払の示談をしてこれに従つて全部支払を完了し、将来の療養費についても可能な範囲の支払をなす意思のあることを裁判所の試みた和解において表明し、夫婦間の子をその出生当時から引き続き養育している等判示事情のあるときは、民法七七〇条二項により離婚の請求を棄却すべき場合にはあたらない。
精神病を理由とする離婚が認められた事例
民法770条1項4号,民法770条2項
判旨
不治の精神病を理由とする離婚請求(民法770条1項4号)は、病者の今後の療養・生活について具体的な方途がある程度つき、前途に見込みが立った上でなければ、同条2項により棄却すべきである。本件では、夫が過去の療養費を完済し、将来も資力の範囲で支払う意思を示している等の事情から、離婚が認められた。
問題の所在(論点)
配偶者が「強度の精神病にかかり、回復の見込みがない」(民法770条1項4号)場合において、同条2項により離婚請求を棄却すべきか否かの判断基準が問題となる。
規範
民法770条1項4号の「強度の精神病にかかり、回復の見込みがない」場合に該当しても、直ちに離婚が認められるわけではない。同条2項の趣旨に照らし、諸般の事情を考慮した上で、病者の今後の療養、生活等についてできる限りの具体的方途を講じ、ある程度においてその方途の見込みがついた上でなければ、離婚の請求は許されない。
重要事実
妻Dは強度の精神病にかかり、回復の見込みが乏しい状態であった。夫(被上告人)は生活に余裕がない中、妻の実家(上告人)との間で過去の療養費30万円を支払う示談をし、分割払いで全額を完済した。また、将来の療養費についても、裁判上の和解において資力の範囲内で支払う意思を表明していた。一方、妻の実家には療養費を賄える程度の資産があり、夫婦間の長女は夫が継続して養育していた。
あてはめ
夫は経済的に苦しい状況にありながら、過去の療養費を約定通り全額支払っており、将来の費用負担についても可能な限りの支払意思を誠実に表明している。妻の実家側にも一定の資産があることや、夫が長女を養育している事実も考慮すると、病者の療養・生活について「具体的方途の見込みがついた」といえる。したがって、婚姻関係の廃絶を不相当とする離婚障害事由は存在しないと評価される。
結論
民法770条1項4号に基づく離婚請求を認容した原審の判断は正当である。
実務上の射程
精神病離婚において、健康な側の配偶者がこれまでどの程度療養を支えてきたか、および離婚後も可能な範囲で扶助を継続する意思があるかという「誠意」を重視する射程を持つ。答案上は、2項の裁量棄却を回避するための要素として、過去の費用負担の実績と将来の具体的方途(扶助の継続)を具体的事実から拾って論じる必要がある。
事件番号: 昭和32(オ)962 / 裁判年月日: 昭和36年4月25日 / 結論: 破棄差戻
一民法第七七〇条第一項第四号の離婚原因を主張して離婚の訴を提起したからといつて、反対の事情のないかぎり同条項第五号の離婚原因も主張されているものと解することは許されない。 二妻が精神病にかかつているけれども回復の見込がないと断じ得ないため民法第七七〇条第一項第四号の離婚原因を認め得ない場合に、右精神病治療のため相当長期…