一 人訴第四条は、後見監督人または後見人が禁治産者の法定代理人としてその離婚訴訟を遂行することを認めたものではなく、その職務上の地位に基き禁治産者のため当事者として右訴訟を遂行しうることを認めた規定と解すべきである。 二 離婚訴訟については、民訴第五六条の適用がない。 三 民法第七七〇条第一項第四号と同条第二項は、単に夫婦の一方が不治の精神病にかかつた一事をもつて直ちに離婚の請求を理由ありとするものと解すべきでなく、たとえかかる場合においても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない法意であると解すべきである。
一 人訴第四条の趣旨。 二 離婚訴訟と民訴第五六条適用の有無。 三 民法第七七〇条第一項第四号と同条第二項の法意。
人事訴訟手続法4条,民訴法56条,民法770条
判旨
心神喪失の常況にある者に対し離婚の訴えを提起する場合、民事訴訟法の特別代理人規定は準用されず、禁治産宣告を受けた上で後見監督人又は後見人を被告とする必要がある。また、精神病を理由とする離婚請求は、病者の今後の療養や生活に具体的方途の見込みが立つなどの事情を考慮した上でなければ認められない。
問題の所在(論点)
心神喪失の常況にあり、かつ禁治産(現行の成年後見)の宣告を受けていない者に対し、民訴法の特別代理人を選任して離婚の訴えを提起できるか。また、強度の精神病を理由とする離婚を認めるための要件は何か。
規範
1. 離婚訴訟は本人の自由な意思を必須とする身分行為であり、代理に親しまない。民訴法上の特別代理人は、代理に親しまない離婚訴訟には適用・準用されない。2. 心神喪失者に対する離婚訴訟は、禁治産宣告を経て、人事訴訟法(当時)に基づき後見監督人又は後見人を当事者として行うべきである。3. 民法770条1項4号の離婚事由がある場合でも、同条2項に基づき、病者の今後の療養・生活等について具体的方途の見込みがついた上でなければ、離婚の請求は許されない。
重要事実
夫(原告)が、心神喪失の常況にある妻(被告)に対し離婚の訴えを提起した。第一審及び原審は、民訴法(当時)56条を準用し、法定代理人がいない場合に準じて特別代理人を選任することで訴訟を追行できるとした。これに対し、被告側が適法な被告適格を欠くとして上告した事案である。
あてはめ
1. 離婚は重大な身分上の利害を伴い、反訴や財産分与等の慎重な判断を要するため、臨時の特別代理人ではなく、常置機関である後見人等が遂行すべきである。2. 民法770条2項は、不治の精神病という事実のみで直ちに離婚を認めず、裁判所の裁量による棄却を認めている。本件において原審が、離婚後の療養・保護を「関係者の良識と温情に期待する」として具体的方途を検討せずに離婚を認めたことは、同条項の解釈を誤っている。
結論
特別代理人による提訴は認められず、禁治産宣告等の手続を先行させるべきである。また、不治の精神病を理由とする離婚には、病者の今後の生活への具体的配慮が必要であるとして、原判決を破棄し差し戻した。
実務上の射程
精神病離婚(770条1項4号)における「具体的方途の要否」を判断したリーディングケースである。答案上では、有責配偶者からの離婚請求と同様に、770条2項の裁量棄却を検討する際の具体的考慮要素(療養・生活の具体的方途)として引用すべきである。訴訟手続面については、現行の人事訴訟法14条等により調整されている点に留意が必要。
事件番号: 昭和39(オ)558 / 裁判年月日: 昭和40年6月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法770条1項5号にいう「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否については、婚姻成立の経緯や共同生活の実態、子の福祉に加え、当事者の反省・努力や周囲の協力による関係回復の可能性を総合して判断すべきである。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の婚姻関係について、上告人は婚姻当初から意思の合致が欠けてい…