不動産の執行吏保管・占有移転禁止を命ずる仮処分決定に基づく執行を受けた仮処分債務者が、右決定に違反して第三者に占有を移転した場合においても、仮処分債権者は、本案訴訟において、仮処分債務者の占有喪失を顧慮することなく、同人を被告として、不動産の引渡または明渡を請求することができる。
占有移転禁止の仮処分決定に違反した占有の移転と本案訴訟の帰すう
民訴法755条,民訴法758条
判旨
占有移転禁止の仮処分に違反して占有が移転された場合、債務者は債権者に対して占有喪失を主張できず、債権者は被告をそのままとして本案訴訟を追行できる。
問題の所在(論点)
占有移転禁止の仮処分執行後、債務者がこれに違反して占有を移転した場合、債務者は本案訴訟において占有の喪失を抗弁として主張できるか(当事者固定の効力の範囲)。
規範
不動産に対する占有移転禁止の仮処分決定は、本案確定判決に基づく引渡・明渡の執行を保全することを目的とする。したがって、仮処分決定に基づく執行を受けた債務者が、決定に違反して第三者に占有を移転しても、債務者は債権者に対してその占有喪失を主張することは許されず、債権者は債務者の占有喪失を考慮することなく、当該債務者を被告としたままで本案訴訟を追行することができる。
重要事実
賃貸人(被上告人)は、賃借人から無断で建物の賃借権および飲食店営業を譲り受けた譲受人(上告人)に対し、無断譲渡を理由に賃貸借契約を解除した。被上告人は、建物明渡請求権の強制執行を保全するため、上告人を債務者として占有移転禁止の仮処分決定を得て執行した。しかし、上告人は執行後、元の賃借人に対して建物を引き渡し、現実の占有を喪失した。上告人は本案訴訟において、自らが占有していないことを理由に明渡義務の不存在を争った。
あてはめ
本件建物の引渡は、占有移転禁止の仮処分決定に違反して行われたものである。仮処分制度の保全目的からすれば、債務者である上告人が自ら占有を解いたとしても、債権者との関係ではなお占有者としての地位が擬制される。したがって、上告人が現実の占有を喪失したという事実は、被上告人に対する明渡義務を免れる理由にはならず、上告人を被告とする本案訴訟の維持が認められる。
結論
上告人の占有喪失の主張は認められず、上告人に対する本件建物の明渡を命じた原判決は正当である。
実務上の射程
当事者固定の効力を認めた重要判例であり、民事執行法上の承継執行文(同法62条)の制度的背景となる考え方を示す。司法試験では、被告が訴訟中に占有を移転した場合の被告適格や、執行不不能を回避するための仮処分の意義を論じる際に活用する。
事件番号: 昭和27(オ)1143 / 裁判年月日: 昭和28年11月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の明渡請求が、権利の濫用(民法1条3項)に該当するか否かは、諸般の事情を総合的に考慮して判断される。本件では、原審が認定した事実関係に基づき、明渡請求を権利の濫用にあたらないとした判断が維持された。 第1 事案の概要:上告人(被告・占有者)に対し、被上告人(原告・所有者)が建物の明渡を請求し…