一個の債権に対し数個の差押がされた場合において、差押の競合の有無について、第三債務者に適確な判断を期待しえない事情があるときは、法律上差押の競合があるとはいえない場合においても、第三債務者は、民訴法六二一条一項の類推適用により、供託による免責を得られるものと解すべきである。
一個の債権に対し数個の差押があつた場合と第三債務者の民訴法六二一条一項による供託による免責
民訴法621条
判旨
債権の差押えが競合する場合、第三債務者は供託により免責されるが、厳密な意味で差押えが競合しない場合であっても、多数の差押えが存在し、優先順位や競合の有無の判断が困難な客観的事情があるときは、旧民訴法621条1項(現行民事執行法156条1項)を類推適用して供託による免責が認められる。
問題の所在(論点)
一個の債権に対する数個の差押え等の総額が、被差押債権額を超過していないため厳密な意味での「競合」が生じていない場合であっても、第三債務者は旧民訴法621条1項(現行民事執行法156条1項)に基づく権利供託により免責されるか。
規範
債権に対する差押えが競合する場合、第三債務者は供託を行う権利(権利供託)を有する。もっとも、差押債権額の総額が被差押債権額を超過しない場合は原則として「競合」にあたらない。しかし、同規定の趣旨が、第三債務者に差押えの適否や優先順位の審査という過重な負担や二重払いの危険を負わせることを回避し、執行手続の適正を図る点にあることに鑑みれば、本来の意味での競合がない場合であっても、①一個の債権に対し多数の差押えがあり、かつ、②第三債務者の立場からみて、優先順位の存否や競合の有無の判断が困難とみられる客観的事情が存在する場合には、同規定を類推適用して供託による免責を認めるのが相当である。
重要事実
債務者である訴外会社は、被上告人(商品取引所)に対し、会員信認金(20万円)および仲買保証金(260万円)を預託していた。上告人は、これら返還請求権のうち計380万円分を差し押さえ転付命令を得た。この上告人の差押えに先立ち、訴外Eによる仮差押え(30万円)および下関社会保険事務所による差押え(約20万円)がなされていたが、この時点での差押総額は預託金総額を超えていなかった。しかし、その後弁済期が到来するまでの間に、優先弁済権を有する商品委託者らを含む多数の債権者(Fら13名)から、総額約6,034万円に及ぶ差押え・仮差押えが相次いでなされた。そこで、被上告人は民訴法621条(旧法)に基づき、全額を供託した。
あてはめ
本件では、上告人の差押え時点では差押総額が被差押債権額を超過しておらず、厳密な意味での競合があったとはいえない。しかし、被差押債権の弁済期が未到来の間に、優先弁済権者を含む多数の債権者から、債権総額を遥かに超える額の仮差押え・差押えが相次いでなされている。このような状況下では、第三債務者である被上告人にとって、差押えの重複の有無や優先関係について的確な判断を期待することは困難というべき客観的事情がある(要件①②を充足)。したがって、同条を類推適用し、供託による免責を認めるのが相当である。
結論
被上告人による供託は有効であり、これによって被上告人は免責されるため、上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
現行法下の民事執行法156条1項の「権利供託」の場面でも同様の判断枠組みが維持されている。実務上、第三債務者が二重払いのリスクを回避するために行う供託の有効性を広く認める根拠として重要である。司法試験においては、差押えの有効性や転付命令の効力が争点となる際、第三債務者の免責の成否を論ずる文脈で使用する。
事件番号: 昭和41(オ)1236 / 裁判年月日: 昭和45年11月6日 / 結論: 破棄自判
(省略)