自動車の販売等を業とする会社の販売課に勤務する被用者が、退社後映画見物をして帰宅のための最終列車に乗り遅れたため、私用に使うことが禁止されていた会社内規に違反して会社の自動車を運転し、帰宅する途中追突事故を起す等判示事実関係のもとにおいて他人に加えた損害は、右会社の「事業ノ執行ニ付キ」生じたものと解するのが相当である。
会社の被用者が私用のため会社の自動車を運転中他人に加えた損害が民法第七一五条の会社の「事業ノ執行ニ付キ」生じたものとされた事例。
民法715条
判旨
被用者が会社の内規に反して車両を私的に運転した場合であっても、行為の外形を客観的に観察して職務範囲内と認められるときは、民法715条1項の「事業の執行について」に該当する。
問題の所在(論点)
被用者が、使用者の許可なく内規に違反して、専ら私的な目的で会社所有の車両を運転し事故を起こした場合、民法715条1項の「事業の執行について」という要件を充たすか。
規範
民法715条1項にいう「事業の執行について」とは、被用者がその担当業務を適正に執行する場合に限られない。広く被用者の行為の外形を捉えて客観的に観察したとき、使用者の事業の態様、規模等に照らして、それが被用者の職務行為の範囲内に属すると認められる場合を含む(外形標準説)。
重要事実
自動車販売会社に勤務する被用者Aは、販売契約係として日常的に会社所有のジープを運転して営業業務に従事していた。ある日、Aは退社後に映画を鑑賞したが、帰宅用の最終列車に乗り遅れたため、無断で会社に引き返した。Aは、私用目的での使用が内規で禁止されており、かつ上司の許可も得ていないにもかかわらず、会社所有のジープを持ち出して帰宅する途中に追突事故を起こした。
あてはめ
本件において、Aは販売契約係として日常的に当該ジープを運転して営業活動を行っており、当該車両の運転自体はAの職務範囲に含まれる行為であった。Aが内規に違反し、かつ主観的には帰宅という「私用を弁ずるため」に運転していたとしても、外部から客観的に観察すれば、会社所有の車両を職務権限のある被用者が運転している状態であり、その行為の外形は職務の範囲内に属すると認められる。したがって、使用者の事業の態様や規模からしても、本件事故は「事業の執行について」生じたものと解するのが相当である。
結論
Aの行為は「事業の執行について」なされたものと認められ、使用者である会社は民法715条1項に基づき損害賠償責任を負う。
実務上の射程
被用者の私用運転(いわゆる放蕩運転)に関するリーディングケースである。判例は、取引安全の観点から主観的意図ではなく客観的外形を重視する。答案では、被用者の本来の職務内容と、事故時の行為の客観的類似性を具体的事実(職種、車両の種類、保管状況等)から論証する際に本規範を用いる。
事件番号: 昭和46(オ)690 / 裁判年月日: 昭和46年12月21日 / 結論: 棄却
運送会社に自動車助手として雇われ、業務上急用の際には会社所有の第一種原動機付自転車を運転することの許諾を得ていて、その鍵を自由に持ち出せる状況にあつた被用者が、勤務時間終了後に私用のため無断で右自転車を運転して事故を起こしたなど判示の事実関係のもとにおいては、右運送会社は、右事故につき使用者責任を負うべきである。