犬に咬まれた患者(当時一三歳)の治療にあたつた医師が、その犬の狂犬でないことの推測ができる程度の資料があつたにもかかわらず、狂犬病の発病を恐れるあまり、まず予防接種をしておけばよいとの安易な考えのもとに、その接種による後麻痺症の危険についてはほとんど考慮を払わずに、これを継続施行する等原審認定のような事情(原判決理由参照)があるときは、右医師は、その結果による後麻痺症の発生につき過失の責を免れない。
狂犬病予防接種による後麻痺症の発生につき医師の過失責任が認められた事例。
民法709条
判旨
狂犬病予防接種を施行する医師には、当該予防接種の施行に際して遵守すべき注意義務があり、これに違反して後麻痺症等の損害を生じさせた場合には不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
問題の所在(論点)
狂犬病予防接種の施行に際し、医師に不法行為法上の注意義務違反(過失)が認められるか、およびその不法行為責任の成否が問題となる。
規範
医師が予防接種等の医療行為を行うにあたっては、当時の医療水準に照らし、当該施行に際して遵守すべき注意義務を負う。この注意義務に違反し、施行の結果として発生した損害(後麻痺症等)との間に相当因果関係が認められる場合には、民法709条に基づき損害賠償責任を負う。
重要事実
上告人(医師)は、被上告人に対し狂犬病予防接種を施行した。しかし、被上告人は当該接種の施行後に後麻痺症を発症し、損害を被った。上告人は、予防接種の施行に際して医師として遵守すべき注意義務を欠いていた疑いがあるとして、損害賠償を求められた。
あてはめ
確定した事実関係によれば、上告人は本件狂犬病予防接種の施行に際し、医師として当然に遵守すべき注意義務を欠いていた。この注意義務違反の結果として被上告人に後麻痺症が発生したと認められるため、上告人の行為と被上告人の損害との間には因果関係が認められ、過失による不法行為が成立すると評価される。
結論
上告人は、医師としての注意義務を欠いたことにより、被上告人が被った損害を賠償する責任を免れない。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
本判決は、予防接種における医師の注意義務違反を肯認した事例である。司法試験においては、医療過失の基本構成(注意義務の内容・違反・因果関係)を論じる際の具体例として参照されるが、判決文自体が簡潔であるため、具体的な注意義務の内容については下級審の事実認定に依拠する部分が大きい点に留意が必要である。
事件番号: 昭和50(オ)140 / 裁判年月日: 昭和51年9月30日 / 結論: 破棄差戻
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