一 空襲により一家全滅した本家の再興のため、親族の協議により相続人に選ばれて本家の家業を継ぎ、相続財産に属する土地を占有している二二歳の女子につき、原審認定のような事実関係(原判決理由参照)があるときは、同人がその土地の所有権を取得したものと信ずるにつき過失はないものと解すべきである。 二 民法第一六〇条は、相続財産の管理人の選任前、相続財産たる土地を、所有の意思をもつて、平穏、公然、善意無過失で一〇年間占有した場合にも、その適用があるものと解すべきである。
一 民法第一六二条第二項の無過失の事例 二 相続財産の管理人選任前取得時効期間が満了した場合と民法第一六〇条
民法162条2項,民法160条
判旨
相続財産に属する権利及び相続財産に対する権利については、民法160条に基づき、相続人の確定又は管理人の選任がない限り時効は完成しない。たとえ10年間の善意無過失占有を継続したとしても、管理人選任から6ヶ月を経過するまでは取得時効は完成しないと解すべきである。
問題の所在(論点)
相続財産管理人が選任される前に取得時効の期間が満了した場合であっても、民法160条の適用により時効の完成が停止されるか。また、その場合の時効完成時期はいつか。
規範
民法160条によれば、相続財産に関しては、相続人が確定した時又は管理人が選任された時から6ヶ月以内は時効が完成しない。したがって、相続人の確定も管理人の選任もない限り、相続財産に属する権利及び相続財産に対する権利の時効完成は妨げられる。
重要事実
被上告人は、本件不動産を自己の所有と信じ、過失なく10年間所有の意思をもって平穏かつ公然に占有を継続した。当該不動産は相続財産であったが、時効期間の経過後である昭和31年12月4日にようやく相続財産管理人が選任された。上告人は、管理人選任後6ヶ月以内に時効中断の事由を主張・立証していない。
事件番号: 昭和37(オ)970 / 裁判年月日: 昭和38年2月21日 / 結論: 棄却
山林の所有権取得時効の基礎要件たる占有は、時効援用者の単独占有でなければならない。
あてはめ
民法160条の趣旨は、相続人が不明な場合等に時効中断の措置を執ることが困難な状態を考慮した点にある。本件では、占有開始から10年が経過した時点ではまだ管理人が選任されておらず、時効完成が猶予される。昭和31年12月4日に管理人が選任されたことにより、同条の「管理人が選任された時」に該当し、そこから6ヶ月間は時効が完成しない。しかし、その6ヶ月間に時効中断の事由が生じていないため、期間経過後の昭和32年6月4日に取得時効が完成したと評価される。
結論
相続人確定又は管理人選任前は取得時効は完成しない。本件では管理人選任から6ヶ月を経過した時点で取得時効が完成する。
実務上の射程
時効停止規定(民法158条〜161条)の適用範囲に関する判例であり、特に相続財産(160条)において、時効期間経過後に管理人が選任された場合でも遡及的に時効完成が阻止される点を確認している。答案上は、相続財産の帰属をめぐる時効の抗弁において、時効中断の機会が保障されていたかという観点から停止事由の有無を論じる際に用いる。
事件番号: 昭和45(オ)939 / 裁判年月日: 昭和46年6月22日 / 結論: 棄却
時効により不動産の所有権を取得しても、その登記がないときは、時効完成後旧所有者から所有権を取得し登記を経た第三者に対し、所有権の取得を対抗できない(最高裁判所昭和三〇年(オ)第一五号、同三三年八月二八日第一小法廷判決、民集一二巻一二号一九三六頁)。
事件番号: 昭和35(オ)948 / 裁判年月日: 昭和37年11月9日 / 結論: 棄却
一 法律行為の効力は、その行為当時施行されていた法令によつて定められるのであり、その後に法令の改廃が行われても、過去の法律行為の効力に影響を及ぼさない。 二 所属宗派の主管者の承認を欠くため無効であつた寺の不動産処分行為は、宗教法人の施行によつて有効とはならない。
事件番号: 昭和34(オ)425 / 裁判年月日: 昭和36年8月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所有権の取得時効の要件である「所有の意思」の有無は、占有取得の原因となった権原の性質により客観的に決定される。他人の留守番として土地を使用する権原は、その性質上、所有の意思を認め得ない他主占有にあたる。 第1 事案の概要:占有者Dは、被上告人から本件土地の「留守番」として使用することを許され、これ…