賃借人が死亡し、相続人として妻および子がある場合は、特段の事情の認められないかぎり、子のみに対する賃貸借解除の意思表示を有効ということはできない。
賃借人の相続人が数名ある場合と解除の意思表示。
民法544条
判旨
賃借権が共同相続された場合、賃貸借契約の解除の意思表示は、特段の事情がない限り、共同相続人の全員に対してなされる必要がある。
問題の所在(論点)
賃借権が共同相続された場合において、賃貸人が行う解除の意思表示は、共同相続人のうちの一人に対してのみ行えば足りるか、それとも全員に対して行う必要があるか。
規範
賃貸借契約において賃借人が死亡し、その賃借権を複数の相続人が承継した場合、当該賃借権は共同相続人の不可分的な準共有(民法264条、898条)となる。契約解除の意思表示は、その不可分性および契約関係の一体性を保持するため、民法544条1項の法理に準じ、共同相続人の全員に対して行われなければその効力を生じない。
重要事実
賃借人Dが死亡し、その妻Eと子である上告人が本件家屋の賃借権を共同相続した。賃貸人(被上告人)は、無断転貸を理由として賃貸借契約の解除を主張したが、その意思表示は共同相続人の一人である上告人のみに対してなされたものであった。第一審は共同賃借人であることを前提に解除を無効としたが、原審は上告人のみが賃借人であるとして解除を有効と判断したため、上告人が上告した。
あてはめ
本件において、賃借人Dの死亡により賃借権はEおよび上告人に共同相続されている。この場合、特段の合意や賃貸借の更改(民法513条)といった事情がない限り、賃借人はEおよび上告人の両名である。したがって、賃貸人が本件契約を解除するためには、解除権の不可分性の原則(民法544条1項)に基づき、共同相続人であるEおよび上告人の全員に対して解除の意思表示を行う必要がある。上告人のみに対してなされた解除の意思表示は、不適法なものと言わざるを得ない。
結論
賃貸借契約を解除するには共同相続人の全員に対して意思表示をしなければならず、一人に対する解除のみでは効力を生じない。
実務上の射程
賃借権の共同相続における解除の相手方を確定させる重要判例。答案では民法544条1項(解除権の不可分性)の類推適用を根拠に論じる。契約当事者の一方が複数である場合の法理として、解除だけでなく更新拒絶等の通知についても同様の処理が求められる点に注意が必要である。
事件番号: 昭和36(オ)1056 / 裁判年月日: 昭和37年4月19日 / 結論: 棄却
土地賃借権が共同相続された場合、その共同相続人の一人に対してなされた賃貸借解約の意思表示は、その効力がない。