わが国においてとくに市民の生活と関係のある有数の大会社で、世人にあまねく知られている甲会社が本店を移転する計画で建設した新社屋の所在地と同一行政区画内において、甲会社と同一の事業を営むに足りる能力および準備のない乙会社がその商号および目的を甲会社と同一のものに変更し、これを登記したこと、そのため、甲会社は新社屋所在地に本店移転の登記をすることができなくなつたこと、乙会社の裏書のある手形が銀行に呈示されたため、同一商号の甲会社に対し銀行から問合せがあつたこと、その他乙会社が甲会社の商号と同一の商号を使用することについて原判決理由記載の事情があるときは、甲会社は商法第二一条の規定により、乙会社に対し、該商号の使用の禁止を請求することができる。
商法第二一条の規定により商号使用の禁止を請求することができるとした事例。
商法21条,商法19条,商法中改正法律施行法(昭和13年法律73号)5条2項,東京都制(昭和18年法律89号)191条,地方自治法附則2条
判旨
不正の目的をもって他人の営業と誤認させる商号を使用し、他人の利益を害するおそれがある場合には、商号の使用差止等の請求が認められる。
問題の所在(論点)
上告人が「D株式会社」という商号を使用することが、不正の目的をもって他人の営業と誤認させる商号の使用(会社法8条1項参照)に該当し、他人の利益を害するおそれ(同条2項参照)があるといえるか。
規範
「不正の目的」をもって「他人の営業と誤認させる」商号を使用し、かつ、これによって他人の「利益を害されるおそれ」がある場合には、商法(現行会社法8条を含む)の規定等に基づき、当該商号の使用は違法と判断される。判断に際しては、証拠に基づき認定された事実関係を総合的に考慮し、混同の具体的危険性を検討する。
重要事実
上告人(控訴会社)は、「D株式会社」という商号を使用していた。これに対し、被上告人(被控訴会社)は、当該商号の使用が自社の営業と誤認させるものであり、自社の利益を害するおそれがあるとして争った。原審は、証拠に基づき、上告人による「D株式会社」なる商号の使用に「不正の目的」および「営業の誤認」の事実を認めた。
あてはめ
原審が認定した事実関係によれば、上告人が「D株式会社」という商号を使用する行為は、不正の目的をもって被上告人の営業と誤認させる商号の使用に当たると判断される。また、被上告人がこれによって利益を害されるおそれがあるという点も、証拠に照らして相当である。上告人の主張は、原審の専権に属する証拠の取捨および事実認定を非難するものにすぎず、原審の判断に合理性が認められる。
結論
上告人の商号使用は、不正の目的による誤認混同の惹起に該当し、被上告人の利益を害するおそれがあるため、その差止め等の請求は正当である(本件上告は棄却される)。
実務上の射程
会社法8条(旧商法20条、21条)の「不正の目的」および「営業の誤認」の判断について、原審の事実認定を尊重する姿勢を示した事例である。答案作成においては、誤認混同の具体的状況や主観的な不正の意図を事実関係から摘示し、要件充足性を検討する際の指針となる。具体的な事案の詳細は判決文からは不明だが、商号の同一性・類似性が強い場合には、営業主体を混同させるおそれが肯定されやすい点に留意すべきである。
事件番号: 昭和39(オ)1013 / 裁判年月日: 昭和40年3月18日 / 結論: 棄却
一 「A」と「AB」の両商号は、その文字呼称において「A」が共通であり、後者はこれに「B」の文字を加えたものにすぎないから、右の両商号は類似商号に該当する。 二 「A」と「AB」とは、原審認定の事実関係のもとで、類似商号ということができる。