履行遅滞中に市価低落し、その後に引渡がなされた場合、遅滞によつて転売により得べかりし利益を失つたことによる損害賠償額は、履行期と引渡時との市価の差額を基準として算定すべきである。
履行遅滞後に引渡がなされた場合における遅滞による損害賠償額。
民法715条,民法416条
判旨
売買の履行遅滞後、目的物の引渡がなされた場合の損害賠償額は、特段の事情のない限り、本来の履行期における市価と実際の引渡時における市価との差額によって算定すべきである。
問題の所在(論点)
履行遅滞により目的物の引渡がなされた場合における、民法415条に基づく損害賠償額の算定基準時期が、本来の履行期か、それとも現実の引渡時か。
規範
履行遅滞による損害賠償は、債務が履行されないまま終了した履行不能等の場合と異なり、遅れてなされた給付を考慮すべきである。具体的には、履行が遅れたために減少した転売利益等の額が損害額となるべきであり、特段の事情のない限り、本来の履行期における市場価格と実際の引渡時における市場価格との差額をもって損害額とする。
重要事実
被上告人(買主)は、上告人(売主)から大豆原油および大豆特製油を購入したが、履行期に引渡が得られなかった。その後、売主は他所から入手した同種の油を、本来の履行期を過ぎた昭和26年3月5日および同年4月16日にそれぞれ引き渡した。原審は、履行遅滞を原因とする損害賠償額の算定において、本来の履行期における市場価格と買入価格との差額を損害(得べかりし利益)とした。
あてはめ
本件では履行遅滞後に目的物の引渡が完了している。原審のように「履行期市価と買入価格の差額」を損害とすると、遅滞後に現実に行われた給付の価値を無視することになる。転売利益の喪失を損害とする場合、履行期に転売していれば得られたであろう利益と、遅滞後に引渡を受けた時点での転売で得られる利益との差こそが、遅滞によって生じた実質的な損害といえる。したがって、引渡時における市価を審理し、履行期市価との差額を算出する必要がある。
結論
原審の損害算定には誤りがある。履行遅滞後に目的物の引渡があった場合の損害額は、履行期における市価と現実の引渡時における市価の差額によって算定すべきである。
実務上の射程
本判決は履行遅滞中の価格下落(値下がり)による損害(転売利益の減少)を請求する場合の標準的な算定枠組みを示す。答案上は、履行遅滞後に履行がなされた事案において、民法416条の「相当因果関係」の範囲内の損害を具体化する際に、履行期と引渡時の「中間最高価格」ではなく、原則として「引渡時」との差額によるべき根拠として用いる。
事件番号: 昭和32(オ)710 / 裁判年月日: 昭和35年4月14日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】売買契約解除による損害賠償において、解除時の時価が約定価格より低い場合はその差額を通常損害とし、時価以下で売却せざるを得ない特別事情がある場合はその差額を特別損害とする。 第1 事案の概要:売主(被上告人)は、債務整理の必要から買主(上告人)に物件を売却したが、買主が代金支払を怠ったため契約を解除…
事件番号: 昭和29(オ)962 / 裁判年月日: 昭和30年12月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売主の債務不履行により不動産売買契約が解除された場合、買主は通常損害として、解除当時における目的物の交換価格と売買代金との差額を賠償請求できる。 第1 事案の概要:売主(上告人)と買主(被上告人)との間で不動産の売買契約が締結されたが、売主の責めに帰すべき事由により引渡義務が不履行となった。これを…