一 親権者が自己と共同所持人の関係にある未成年の子を代理して手形を他に譲渡する行為は、親権者と子の利益相反する行為にあたらない。 二 受取人白地の手形所持人は、受取人欄白地のまま単なる交付によつて右手形を譲渡することができる。
一 親権者と子の利益相反行為にあたらない事例。 二 白地手形の譲渡方法。
民法826条1項,手形法10条
判旨
親権者が、自己と共同所持人の関係にある未成年の子を代理して手形を他に譲渡する行為は、利益相反行為(民法826条)には当たらない。また、受取人白地の手形所持人は、白地のまま単なる交付によって有効に譲渡することができる。
問題の所在(論点)
1. 親権者が共同所持人である子を代理して手形を譲渡する行為が、民法826条の利益相反行為に該当するか。2. 受取人白地の手形の譲渡方法として、単なる交付が認められるか。
規範
親権者と子の利益相反行為(民法826条)に該当するか否かは、行為の客観的性質によって判断される。共同所持人である親権者が未成年の子を代理して手形を譲渡する行為は、形式的にみて親の利益のために子の利益を害する性質のものとはいえない。また、受取人欄が白地の手形については、白地の補充を要せず、交付のみによって譲渡が可能である。
重要事実
親権者Dは、未成年の子EおよびFと共同で本件手形を所持していた。Dは、子EおよびFの法定代理人として、本件手形の受取人欄を白地にしたまま、第三者に対して当該手形を譲渡した。これに対し、譲渡が利益相反行為に該当し、特別代理人の選任がないため無効であるとの主張がなされた。
あてはめ
1. 本件において、Dは自己も手形の所持人でありつつ、子の代理人として譲渡を行っている。このような手形の譲渡行為は、客観的にみて子から親へ利益を移転させるものではなく、単なる共同所持に係る権利の処分にすぎない。したがって、親権者と子の間に利益の対立は生じない。2. 手形法上の解釈として、受取人白地手形は交付によって転々流通することが予定されているため、補充をせずになされた譲渡も有効である。
結論
本件手形の譲渡は利益相反行為に当たらず、特別代理人の同意がなくとも有効である。また、受取人欄が白地のまま交付により譲渡された手形の効力も維持される。
実務上の射程
利益相反行為の判断において、形式的判断説を前提としつつ、共同権利の処分という側面から利益相反性を否定した事例である。手形実務における白地手形の流通性を認める点も重要である。
事件番号: 昭和32(オ)620 / 裁判年月日: 昭和36年12月12日 / 結論: 棄却
約束手形が代理人によりその権限を越えて振り出された場合、手形受取人がその権限あるものと信ずべき正当の理由を有しないときは、その後の手形所持人は、たといこのような正当理由を有していても、民法第一一〇条の適用を受けることができない。