新規温泉の掘さくがなされる前と後とにおいて既存の温泉井の温泉成分に変化があつた事実は認められず、その水位・ゆう出量・温度については軽微な変化は認められるとしても、新規掘さくがその主たる原因とは断定できず、しかもこの変化は、ポンプ座の位置を下げ、モーターを若干強力なものに取り替える等の措置により容易に既存の温泉井の利用・経営に支障を来たさないよう補い得る程度のものである場合には、新規温泉の掘さくが権利の濫用にわたるということはできない。
温泉の掘さくが権利の濫用にならないとされた事例。
民法1条
判旨
温泉掘削という所有権の行使であっても、諸般の事情に照らして権利の濫用に当たると認められる場合には、その行使は許されない。本件では、被上告人による温泉掘削行為が権利の濫用に当たるとはいえないと判断された。
問題の所在(論点)
土地所有権に基づく温泉掘削行為が、隣接する温泉利用者の利益を侵害する場合等において、民法1条3項の権利の濫用に該当し、違法と評価されるか。
規範
民法1条3項に規定される「権利の濫用」の成否は、権利行使によって得られる利益と、それにより他者が被る不利益を比較衡量し、具体的状況に照らして社会通念上妥当な範囲を逸脱しているか否かによって判断される。
重要事実
上告人と被上告人の間で、温泉の掘削をめぐる紛争が生じた事案。被上告人が自らの土地において温泉掘削を開始したことに対し、上告人がその差し止め等を求めたと考えられるが、具体的な掘削の経緯や上告人が主張する不利益の内容については、本判決文からは不明である(※原審認定の事実に基づく判断のみが示されている)。
事件番号: 昭和32(オ)128 / 裁判年月日: 昭和33年7月1日 / 結論: 棄却
一 温泉法第四条は、温泉の掘さくが温泉源を保護しその利用の適正化を図るという公益的見地からとくに有害と認められる場合以外は、掘さくの許可を与えねばならないとの趣旨を定めたものと解すべきであつて、新規の掘さくが、少しでも既存の温泉井に影響を及ぼす限り絶対に掘さくを許可してはならないとの趣旨を定めたものと解すべきではない。…
あてはめ
原審が認定した諸事情を前提とすれば、被上告人による温泉掘削は、正当な所有権の行使の範囲内にとどまる。上告人が主張する事実は原審によって認められておらず、また大審院判例(宇奈月温泉事件等)に照らしても、本件の掘削行為が他者の権利を不当に侵害し、社会的に許容されない態様で行われたとは評価できない。したがって、権利の濫用を構成するに足りる特段の事情は認められない。
結論
被上告人による温泉掘削行為は権利の濫用には当たらず、適法である。上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、温泉掘削という物権的権利の行使であっても権利濫用理論の枠組みで制限される可能性を示唆しつつ、その認定は慎重に行うべきことを示している。答案上は、宇奈月温泉事件(大判昭10.10.5)と同様に、権利行使による主観的意図や客観的な利益の不均衡を検討する際のリーディングケースの一つとして活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)977 / 裁判年月日: 昭和34年9月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共同の権利に属する温泉利用(配湯)権について、その一部の持分権を有する者が他の権利者に対して自己の権利の確認を求める訴えは、必要的共同訴訟には当たらない。 第1 事案の概要:原告(被上告人)は、被告(上告人)および訴外人Dとの三者間において、共同の権利に属する温泉利用(配湯)を受ける権利を有してい…
事件番号: 昭和39(行ツ)13 / 裁判年月日: 昭和40年12月3日 / 結論: 棄却
温泉掘さく許可処分に基づく掘さくにより自己の温泉湧出量に影響を受けたことを主張して、右許可処分の取消を訴求するような場合においても、その訴の提起が右許可処分の日から一年を経過した後であるときは、出訴の遅延につき正当な事由の主張も疎明もないかぎり、不適法な訴と認むべきである。
事件番号: 昭和33(オ)710 / 裁判年月日: 昭和37年1月19日 / 結論: 破棄差戻
既存の公衆浴場営業者は、第三者に対する公衆浴場営業許可処分の無効確認を求める訴の利益を有しないとはいえない。
事件番号: 昭和26(オ)853 / 裁判年月日: 昭和28年10月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第三者に対する公衆浴場営業許可処分は、上告人の居住の自由を侵害するものではなく、憲法違反の主張は適法な上告理由に当たらない。 第1 事案の概要:上告人は、第三者に対してなされた公衆浴場営業許可処分の取消しを求めた。上告人は、当該許可処分が自己の居住の自由を侵害し、憲法に違反するものであると主張して…