売主の所有に属する特定物を目的とする売買においては、特にその所有権の移転が将来なされるべき約旨に出たものでないかぎり、買主に対し直ちに所有権移転の効力を生ずるものと解するを相当とする
特定物の売買と所有権移転の時期
民法176条
判旨
売主の所有に属する特定物の売買においては、特約がない限り、売買契約の成立と同時に直ちに所有権移転の効力が生じる。
問題の所在(論点)
特定物売買における所有権移転時期はいつか。また、引渡しと代金支払が同時履行の関係にある場合、特約がなくても所有権移転時期は制限されるか。
規範
売主の所有に属する特定物を目的とする売買においては、所有権の移転が将来なされるべき特約がない限り、買主に対し直ちに所有権移転の効力が生じる。代金支払義務や引渡義務が同時履行の関係にあるとしても、それだけで所有権移転時期が制限されるものではない。
重要事実
上告人(売主)と被上告人(買主)との間で建物(特定物)の売買契約が締結された。原審は、当該建物の引渡義務と代金支払義務が同時履行の関係にあると認定したが、所有権の移転自体を代金支払や登記と同時になすべきとの特約については認定しなかった。売主側は、代金支払等があるまで所有権は移転しない旨を主張して争った。
事件番号: 昭和33(オ)186 / 裁判年月日: 昭和35年4月26日 / 結論: 破棄差戻
一 買戻の特約を登記しなかつた場合、不動産買戻権は売主の地位と共にのみ譲渡することができる。 二 買戻の特約を登記しなかつた場合における不動産買戻権の譲渡を買主に対抗するには、これに対する通知またはその承諾を必要とし且つこれをもつて足りる。
あてはめ
本件売買の目的物は特定物たる建物である。本件において、所有権移転を将来に行う旨の特約や、代金支払・登記と引き換えに所有権を移転させる旨の合意は認められない。引渡義務と代金支払義務が同時履行の関係にあるとの事実は、債権的義務の履行上の問題に過ぎず、所有権移転という物権変動の時期を左右する特約とはいえない。したがって、契約成立とともに所有権は直ちに移転したと解される。
結論
特約がない限り、売買契約成立時に所有権は移転する。本件建物の所有権は被上告人に直ちに移転している。
実務上の射程
民法176条の「意思表示」のみによって物権変動が起きる原則を確認した重要判例である。答案上は、所有権移転時期が問題となる場面で、特約の有無を検討した上で、原則として契約成立時に移転すると述べる際の根拠として用いる。代金完済時説などの学説もあるが、実務・判例の立場を堅持する際に必須となる。
事件番号: 昭和31(オ)124 / 裁判年月日: 昭和32年9月17日 / 結論: 棄却
売買を原因として所有権移転登記手続の履行を命じる判決をなす場合、売買の日附は、必ずしも主文に表示する必要なく、理由中に明示されておれば足りる。
事件番号: 昭和24(オ)164 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買の予約(民法556条1項)が成立するためには、将来の買受けの相談に応じる意思があるだけでは足りず、具体的な内容の協定が必要である。 第1 事案の概要:不動産の所有者であった上告人は、抵当債務の弁済資力がなく競売に付された際、親譲りの不動産を失うことを惜しみ、親族であるDに対し、後日金策ができた…
事件番号: 昭和27(オ)480 / 裁判年月日: 昭和29年7月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の贈与において、書面によらない場合であっても、当該不動産の所有権移転登記が完了したときは、民法550条にいう「履行の終わった」ものと解され、もはや贈与の解除をすることはできない。 第1 事案の概要:本件は、書面によらずになされた不動産の贈与について、贈与者が民法550条に基づき贈与の撤回(取…
事件番号: 昭和29(オ)354 / 裁判年月日: 昭和31年6月5日 / 結論: 棄却
未登記建物の譲受人は譲渡人に対し移転登記の請求をなすことを妨げない。