本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではない。
本人が無権代理行為の追認を拒絶した後に無権代理人が本人を相続した場合における無権代理行為の効力
民法113条,民法117条,民法896条
判旨
本人が無権代理行為の追認を拒絶した後に、無権代理人が本人を相続した場合、追認拒絶によって無効が確定しているため、無権代理行為が当然に有効になることはない。
問題の所在(論点)
本人が無権代理行為の追認を拒絶した後に、無権代理人(またはその相続人)が本人を相続した場合、民法113条1項の無権代理行為は当然に有効となるか。本人が生前に示した追認拒絶の効力が、後の相続によって左右されるかが問題となる。
規範
本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定する。追認拒絶の後は、本人であっても追認によって有効とすることができず、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、右追認拒絶の効果に何ら影響を及ぼさない。したがって、相続した無権代理人が本人の追認拒絶の効果を主張することは、それ自体信義則に反するものではない。
重要事実
本人の長男Fは、意思能力を喪失した本人Eの代理人と称して、被上告人らとの間で根抵当権設定契約等を締結した(無権代理行為)。Fが死亡し、その子である上告人らがFを相続(限定承認)した。その後、本人Eは後見人を通じて、被上告人らに対し登記抹消を求める訴えを提起したが、訴訟係属中にEが死亡し、上告人らがEを代襲相続した。被上告人らは、無権代理人と本人の地位が同一人に帰属したため、無権代理行為は当然に有効になると主張した。
事件番号: 昭和39(オ)77 / 裁判年月日: 昭和41年11月18日 / 結論: 棄却
一 登記申請行為自体には、表見代理に関する民法の規定の適用はない。 二 偽造文書によつて登記がされた場合でも、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者において登記申請を拒むことができる特段の事情がなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があるときは、登記義務者は右登記の無…
あてはめ
本人Eは、生前に被上告人らに対して本件登記の抹消登記手続を求める本訴を提起しており、これによりFの無権代理行為について追認を拒絶したものといえる。この追認拒絶により、無権代理行為が本人に効力を生じないことは既に確定している。その後に上告人らがEを相続したとしても、確定済みの追認拒絶の効果は失われず、無権代理行為が当然に有効になる余地はない。また、上告人らが追認拒絶の効果を主張することが信義則に反すると解すべき特段の事情も認められない。
結論
本人の追認拒絶により無権代理行為の無効は確定しており、その後の相続によっても有効とはならない。上告人らの抹消登記請求は認められる。
実務上の射程
無権代理と相続の類型において、本人が生前に追認拒絶をしている場合は、その後の資格融合(地位の混同)による当然有効の法理が排除されることを示した。答案上は、まず本人の生前の態度から追認拒絶の有無を確認し、拒絶がある場合は本判例を引用して無効確定を論じるべきである。
事件番号: 昭和63(オ)924 / 裁判年月日: 平成3年3月22日 / 結論: 棄却
未成年者甲の後見人に就職した乙及び丙が甲を代理して売買契約を締結した場合において、乙及び丙は甲の実親であり、甲の養父の死亡により戸籍上甲の後見人に就職した旨記載され、ともに正当な後見人となったものと考えて、甲の財産を管理してきたもので、右売買に右両名が後見人として関与したことにより、甲の利益が損なわれたわけではなく、甲…
事件番号: 昭和36(オ)644 / 裁判年月日: 昭和37年5月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理権消滅後に、元代理人が従前の代理権の範囲を超えた行為をした場合、民法112条(代理権消滅後の表見代理)と110条(権限外の行為の表見代理)の法理を重ねて適用し、相手方がその権限があると信ずべき正当な事由があるときは、本人はその責を負う。 第1 事案の概要:上告人の養父Eは、上告人の承諾を得て土…
事件番号: 昭和40(オ)583 / 裁判年月日: 昭和42年10月27日 / 結論: 棄却
無権代理人の偽造文書による申請に基づいて登記がされた場合においても、本人が右登記の原因たる法律行為を追認したことによりその登記の記載が実体的法律関係に符合するにいたつたときには、本人は、右登記の無効を主張してその抹消登記手続を請求することはできない。
事件番号: 平成7(オ)2025 / 裁判年月日: 平成9年11月11日 / 結論: 棄却
賭博の勝ち負けによって生じた債権が譲渡された場合においては、右債権の債務者が異議をとどめずに右債権譲渡を承諾したときであっても、債務者に信義則に反する行為があるなどの特段の事情のない限り、債務者は、右債権の譲受人に対して右債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むことができる。