建物の汚水を公共下水道に流入させるため隣接地に下水管を敷設する必要がある場合において、建物が建築基準法に違反して建築されたものであるため除却命令の対象となることが明らかであるときは、建物の所有者において右の違法状態を解消させ、確定的に建物が除却命令の対象とならなくなったなど、建物が今後も存続し得る事情を明らかにしない限り、建物の所有者が隣接地の所有者に対し右下水管の敷設工事の承諾及び右工事の妨害禁止を求めることは、権利の濫用に当たる。
隣接地に下水管を敷設する工事の承諾及び当該工事の妨害禁止請求が権利の濫用に当たるとされた事例
下水道法11条1項,下水道法3項,民法1条3項
判旨
建築確認を得ず停止命令も無視して建築された違法建物につき、下水道法に基づく他人の土地への下水管敷設を求めることは、将来の存続可能性が立証されない限り権利の濫用に当たる。
問題の所在(論点)
建築基準法に違反し除却命令の対象となる建物のために、下水道法11条に基づき他人の土地への下水管敷設を求めることが、権利の濫用に当たるか。
規範
下水道法11条1項・3項の規定に基づく他人の土地への下水管敷設の受忍請求権の行使であっても、対象となる建物が建築基準法に違反し、除却命令の対象となることが明らかな場合には、違法状態の解消等により当該建物が今後も存続し得る事情が明らかにされない限り、権利の濫用(民法1条3項)として許されない。
重要事実
袋地である本件土地上の建物(本件建物)は、建築確認を受けず、かつ特定行政庁からの工事停止命令を無視して建築された違法建築物であった。本件土地の所有者(被上告人)は、公共下水道に接続するため、隣接する上告人所有の通路部分に下水管を敷設する工事の受忍を求めた。上告人は、違法建築物のための敷設承諾は筋違いであるとして、権利の濫用を主張した。
事件番号: 平成10(行ツ)239 / 裁判年月日: 平成14年7月9日 / 結論: 破棄自判
1 国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は,不適法である。 2 宝塚市が,宝塚市パチンコ店等,ゲームセンター及びラブホテルの建築等の規制に関する条例(昭和58年宝塚市条例第19号)8条に基づき同市長が発した建築工事の中止命令の名あて人に対し,同工事を続行してはならない旨の…
あてはめ
本件建物は、建築確認を経ず、停止命令も無視して完成されたものであり、建築基準法に違反し除却命令の対象となることが明らかである。被上告人は、この違法状態を解消させた事実や、将来にわたって建物が存続し得る事情を何ら明らかにしていない。このような状況下で、他人の土地に負担を強いる下水管敷設を請求することは、法的に保護されるべき利益を欠くか、他者の権利を不当に侵害するものであり、権利の行使として正当な範囲を逸脱している。
結論
本件建物の存続可能性が明らかでない段階における敷設請求は、権利の濫用として許されない。
実務上の射程
行政法上の違法性が私法上の権利行使の限界(権利の濫用)を画定する要素となり得ることを示した事例。答案上は、下水道法等の公法上の権利行使が問題となる場面で、その背景にある「権利行使の必要性・正当性」を欠く事情として、建築基準法違反等の違法事実を評価語(除却の蓋然性等)とともに論じる際に用いる。
事件番号: 平成1(オ)1682 / 裁判年月日: 平成6年3月24日 / 結論: 破棄差戻
レデイミクストコンクリート製造工場の隣接地住民が右工場の操業に起因する騒音等により被害を受けているとして操業の差止め及び慰謝料の支払を請求したのに対し、住宅の建替えによって被害の程度が変化していること、付近は相当の交通騒音が存在する地域であることなど判示の事情を総合的に考察することなく、右工場の操業が法令等に違反してい…