居宅の日照、通風は、快適で健康な生活に必要な生活利益であつて、法的な保護の対象にならないものではなく、南側隣家の二階増築が、北側居宅の日照、通風を妨げた場合において、右増築が、建物基準法に違反するばかりでなく、東京都知事の工事施行停止命令などを無視して強行されたものであり、他方、被害者においては、住宅地域内にありながら日照、通風をいちじるしく妨げられ、その受けた損害が、社会生活上一般的に忍容するのを相当とする程度を越えるものであるなど判示の事情があるときは、右二階増築の行為は、社会観念上妥当な権利行使としての範囲を逸脱し、不法行為の責任を生ぜしめるものと解すべきである。
隣接居宅の日照通風を妨害する建物建築につき不法行為の成立が認められた事例
民法1条,民法709条
判旨
日照・通風の生活利益は法的保護の対象であり、土地利用権の行使であっても社会観念上妥当な範囲を逸脱し、受忍限度を超える場合は、権利の濫用として不法行為が成立する。
問題の所在(論点)
建物の建築による日照・通風の妨害が、不法行為法上の違法性を有するか。特に、土地利用権の行使としての性格を持つ妨害行為について、権利の濫用が認められる判断基準が問題となる。
規範
権利の行使は、その態様や結果において社会観念上妥当と認められる範囲内でのみ許容される。行為が社会的妥当性を欠き、生じた損害が社会生活上一般に被害者が忍容すべき程度(受忍限度)を超えると認められるときは、権利の濫用として違法性を帯び、不法行為(民法709条)を構成する。
重要事実
上告人は、隣接する被上告人の家屋の日照・通風を著しく妨げる二階増築を行った。この増築は建築基準法に違反しており、都知事からの工事停止命令や除却命令が出されたにもかかわらず、上告人はこれを無視して建築を強行した。その結果、被上告人宅では日中の日照がほぼ遮断され、通風も悪化し、転居を余儀なくされるほどの不快な生活環境となった。
あてはめ
上告人の増築は建築基準法違反にとどまらず、公的な工事停止・除却命令を無視して強行されたものであり、態様において社会的妥当性を著しく欠く。また、住宅地域において朝夕を除きほぼ全日の日照を奪うという結果は、被上告人が期待し得た一定範囲の日照利益を大幅に侵害しており、受忍限度を優に超えている。したがって、本件土地利用権の行使は社会観念上妥当な範囲を逸脱していると評価される。
結論
上告人の行為は権利の濫用として不法行為上の違法性を有するため、被上告人に対し損害賠償義務を負う。
実務上の射程
生活妨害(相隣関係)における「受忍限度論」のリーディングケース。日照等の消極的妨害も積極的妨害(騒音等)と同様に扱う。実務上は、①被侵害利益の性質、②加害行為の態様(行政規制違反の有無・程度)、③損害の程度、④回避可能性等の諸要素を総合考慮して違法性を判断する際の枠組みとして用いる。
事件番号: 昭和49(行ツ)92 / 裁判年月日: 昭和53年5月26日 / 結論: 棄却
個室付浴場業の開業を阻止することを主たる目的として原判示の事実関係(原判決理由参照)のもとにおいてされた知事の児童遊園設置認可処分は、たとえ右児童遊園がその設置基準に適合しているものであるとしても、行政権の著しい濫用によるものとして、国家賠償法一条一項にいう公権力の違法な行使にあたる。