一 行政事件訴訟法三六条にいう「その効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない」とは、当該処分に基づいて生ずる法律関係に関し、処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟によっては、その処分のため被っている不利益を排除することができない場合はもとより、当該処分に起因する紛争を解決するための争訟形態として、右の当事者訴訟又は民事訴訟との比較において、当該処分の無効確認を求める訴えの方がより直せつ的で適切な争訟形態であるとみるべき場合をも意味する。 二 設置許可申請に係る原子炉の周辺に居住する住民が右原子炉の設置者に対しその建設ないし運転の差止めを求める民事訴訟を提起している場合であっても、右住民が提起した右原子炉の設置許可処分の無効確認の訴えは、適法である。
一 行政事件訴訟法三六条にいう「その効力の有無を前提とする現在の」法律関係に関する訴えによって目的を達することができない一の意義 二 設置許可申請に係る原子炉の周辺に居住する住民が右原子炉の設置者に対しその建設ないし運転の差止めを求める民事訴訟を提起している場合における右住民が提起した右原子炉の設置許可処分の無効確認の訴えの適法性
行政事件訴訟法36条
判旨
原子炉設置許可処分の無効確認訴訟において、事故により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の周辺住民は、行訴法36条の「法律上の利益を有する者」として原告適格を有する。また、民事の差止訴訟が可能であっても、無効確認訴訟が紛争解決のためにより直截的で適切な争訟形態であれば、補充性の要件を満たす。
問題の所在(論点)
1. 原子炉設置許可処分の無効確認訴訟において、周辺住民は行訴法36条の「法律上の利益を有する者」に当たるか(根拠法の個別保護性の有無)。 2. 民事の差止訴訟を提起し得る場合、無効確認訴訟の補充性(行訴法36条後段)との関係で、同訴訟の提起は許されるか。
規範
1. 行訴法36条の「法律上の利益を有する者」は、取消訴訟の原告適格(同法9条1項)と同義である。具体的には、根拠法規が一般的公益だけでなく、個々人の個別的利益をも保護する趣旨を含む場合、その利益を侵害されるおそれのある者を指す。この判断には、法規の趣旨・目的、保護しようとする利益の内容・性質を考慮する。 2. 無効確認訴訟の補充性(同法36条後段)については、処分の無効を前提とする当事者訴訟や民事訴訟と比較して、無効確認を求める訴えの方がより直截的で適切な争訟形態であると認められる場合には、補充性の要件を満たす。
事件番号: 平成1(行ツ)130 / 裁判年月日: 平成4年9月22日 / 結論: 破棄自判
一 設置許可申請に係る原子炉の周辺に居住し、原子炉事故等がもたらす災害により生命、身体等に直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民は、原子炉設置許可処分の無効確認を求めるにつき、行政事件訴訟法三六条にいう「法律上の利益を有する者」に該当する。 二 設置許可申請に係る電気出力二八万キロワットの原子炉(高速増…
重要事実
動力炉・核燃料開発事業団が高速増殖炉「もんじゅ」の設置許可を受けたことに対し、周辺(約11〜15km圏内)の住民が、当該設置許可処分には重大かつ明白な瑕疵があるとして、その無効確認を求めて提訴した。住民らは併せて民事の差止訴訟も提起していたため、原告適格の有無、および民事訴訟による代替可能性(補充性)が争点となった。
あてはめ
1. 規制法24条1項3号・4号は、原子炉の安全性審査を義務付けている。原子炉事故が起きれば近隣住民ほど直接的・重大な被害を受ける。この性質から、同法は一般的公益のみならず、深刻な災害による被害を受けることが想定される範囲の住民の生命・身体の安全を「個別的利益」として保護する趣旨である。本件原告らは原子炉から11〜15km圏内に居住しており、想定される被害の範囲内にあるといえる。 2. 民事差止訴訟は、行政処分の効力自体の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えには当たらない。また、行政処分そのものの効力を争う無効確認訴訟の方が、紛争の根本的解決のために直截的かつ適切であると認められる。
結論
1. 周辺住民は「法律上の利益を有する者」として原告適格を有する。 2. 民事差止訴訟の提起が可能であっても、無効確認訴訟の補充性は失われず、訴えは適法である。
実務上の射程
原子炉等の危険施設に関する原告適格の判断枠組みを確立した重要判例である。答案上は、行訴法9条2項(現行法)の考慮要素に沿って、根拠法の条文(本件では24条1項各号)から個別保護性を導き出す際の模範となる。また、補充性については「直截的・適切」というキーワードで、当事者訴訟等よりも無効確認訴訟が優位であることを論証する際に用いる。
事件番号: 平成15(行ヒ)108 / 裁判年月日: 平成17年5月30日 / 結論: 破棄自判
1 どのような事項が原子炉設置許可の段階における安全審査の対象となるべき当該原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項に該当するのかという点は,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律24条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号所定の基準の適合性に関する判断を構成するものとして,原子力安全委員会の科…
事件番号: 平成24(行ヒ)267 / 裁判年月日: 平成26年7月29日 / 結論: その他
1 産業廃棄物の最終処分場の周辺に居住する住民のうち,当該最終処分場から有害な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,当該最終処分場を事業の用に供する施設としてされた産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物処分業の許可…
事件番号: 平成2(行ツ)147 / 裁判年月日: 平成4年10月29日 / 結論: 棄却
原子炉設置の許可の段階の安全審査においては、当該原子炉施設の基本設計の安全生にかかわる事項のみをその対象とするものと解すべきである。
事件番号: 平成9(行ツ)7 / 裁判年月日: 平成14年1月22日 / 結論: その他
建築基準法(平成4年法律第82号による改正前のもの)59条の2第1項に基づくいわゆる総合設計許可に係る建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者は,同許可の取消訴訟の原告適格を有する。