1 どのような事項が原子炉設置許可の段階における安全審査の対象となるべき当該原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項に該当するのかという点は,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律24条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号所定の基準の適合性に関する判断を構成するものとして,原子力安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を十分に尊重して行う主務大臣の合理的な判断にゆだねられている。 2 高速増殖炉の設置許可の申請に対する原子力安全委員会及び原子炉安全専門審査会による安全審査において,2次冷却材ナトリウムの漏えい事故が発生した場合に漏えいナトリウムとコンクリートとが直接接触することを防止するために床面に鋼製のライナを設置するという設計方針が当該原子炉施設の基本設計を構成するものとして審査の対象とされたこと,床ライナの溶融塩型腐食という知見を踏まえても,床ライナの腐食対策を行うことにより前記の直接接触を防止することが可能であり,床ライナの腐食については後続の設計及び工事の方法の認可以降の段階において対処することが不可能又は非現実的であるとはいえないこと,漏えいナトリウムによる床ライナの熱膨張については,床ライナの板厚,形状,壁との間隔等に配意することにより前記認可以降の段階において対処することが十分に可能であることなど判示の事情の下においては,前記設計方針のみが前記許可の段階における安全審査の対象となるべき原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項に当たるものとした主務大臣の判断に不合理な点はなく,また,原子力安全委員会等における前記事故に係る安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできず,これに依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえない。 3 高速増殖炉の設置許可の申請者が行った蒸気発生器伝熱管破損事故に係る安全評価のための解析条件が,伝熱管破損伝ぱの機序としてウェステージ型破損(伝熱管から漏えいした水又は蒸気とナトリウムとの反応によって生じた水酸化ナトリウムの噴出流による損耗作用とその化学的腐食作用との相乗効果によって,隣接伝熱管が破損すること)が支配的であるという考え方を基に設定されたものであったこと,当該原子炉施設については,伝熱管からの水漏えいを検知して伝熱管内の水又は蒸気を急速に抜くなど高温ラプチャ型破損(伝熱管から漏えいした水又は蒸気とナトリウムとの反応によって生ずる高温の反応熱のため強度が低下した隣接伝熱管が内部圧力によって破損すること)の発生の抑止効果を相当程度期待することができる設計となっており,現在の科学技術水準に照らしても前記解析条件が不相当であったとはいい難いことなど判示の事情の下においては,前記解析条件を前提に前記事故を想定してされた解析の内容及び結果が原子力安全委員会における具体的審査基準に適合するとしてされた同委員会等における前記事故に係る安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできず,これに依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえない。 4 高速増殖炉の設置許可の申請者が,1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象(外部電源喪失により1次冷却材ナトリウムの炉心流量が減少し原子炉の自動停止が必要とされる時点で,制御棒の挿入の失敗が同時に重なることを仮定した事象で,炉心崩壊をもたらす事故を起こす代表的事象)における起因過程での炉心損傷後の炉心膨張による最大有効仕事量を約380メガジュールと解析したこと,同申請者が,海外の評価例,関連する実験研究等を調査し,米国の国立研究所が開発した解析コードにより,保守的条件設定によって生ずる遷移過程の再臨界の場合であっても,その機械的エネルギーが380メガジュールを超えないことを確認したこと,この値を踏まえて構造物の耐衝撃評価に当たっては膨張過程における最大有効仕事量として500メガジュールが考慮されたが,この圧力荷重によってナトリウムが漏えいするような破損は原子炉容器等に生じないと解析され,原子力安全委員会は,この解析評価について,事象の選定,解析に用いられた条件及び手法が妥当なものであり,解析結果が同委員会における具体的審査基準に適合する妥当なものであると判断したこと,同審査基準は,前記事象の安全評価の目的を,技術的観点からは起こるとは考えられない事象をあえて想定して事故防止対策に係る基本設計に安全裕度があることを念のために確認することとしていることなど判示の事情の下においては,同委員会等における前記事象に係る安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできず,これに依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえない。
1 原子炉設置許可の段階における安全審査の対象となるべき当該原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項に該当するか否かの判断 2 原子力安全委員会等における2次冷却材漏えい事故に係る安全審査に依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえないとされた事例 3 原子力安全委員会等における蒸気発生器伝熱管破損事故に係る安全審査に依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえないとされた事例 4 原子力安全委員会等における1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象に係る安全審査に依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえないとされた事例
核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(平成11年法律第160号による改正前のもの)23条,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(平成11年法律第160号による改正前のもの)24条2項,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律24条1項3号,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律24条1項4号,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令(平成10年政令第308号による改正前のもの)6条の2第1項1号,動力炉・核燃料開発事業団法(平成10年法律第62号による改正前のもの)2条1項,動力炉・核燃料開発事業団法施行令(平成10年政令第308号による改正前のもの)1条,行政事件訴訟法3条4項
事件番号: 平成1(行ツ)130 / 裁判年月日: 平成4年9月22日 / 結論: 破棄自判
一 設置許可申請に係る原子炉の周辺に居住し、原子炉事故等がもたらす災害により生命、身体等に直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民は、原子炉設置許可処分の無効確認を求めるにつき、行政事件訴訟法三六条にいう「法律上の利益を有する者」に該当する。 二 設置許可申請に係る電気出力二八万キロワットの原子炉(高速増…
判旨
原子炉設置許可処分の適法性判断は、現在の科学技術水準に照らし、安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤・欠落があるか否かにより行われる。また、設置許可段階の審査対象は基本設計の安全性に限られ、具体的な詳細設計や工事方法は後続の認可段階の対象となる。
問題の所在(論点)
原子炉設置許可段階における安全審査の対象範囲、および原子力安全委員会の判断過程に「看過し難い過誤、欠落」があるか否か。
規範
原子炉設置許可処分の基準(規制法24条1項各号)の適合性は、原子力安全委員会の専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う主務大臣の合理的な判断に委ねられる。具体的には、現在の科学技術水準に照らし、具体的審査基準に不合理な点があるか、あるいは調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、主務大臣の判断がこれに依拠した場合には、当該処分は違法となる。また、設置許可段階の審査対象は「基本設計」の安全性にかかわる事項に限定され、詳細設計や具体的施工方法は後続の設計・工事方法認可(規制法27条1項)の段階に委ねることに合理性がある。
重要事実
動力炉・核燃料開発事業団の高速増殖炉「もんじゅ」の設置許可処分に対し、周辺住民が無効確認を求めた。原審は、(1)2次冷却材(ナトリウム)漏えい時の床ライナ腐食知見の欠落、(2)蒸気発生器伝熱管破損時の「高温ラプチャ」現象の考慮不足、(3)炉心崩壊事故時の機械的エネルギー評価の不備を理由に、審査過程に看過し難い過誤・欠落があるとして処分を無効としたため、国側が上告した。
あてはめ
(1)2次冷却材漏えいについて:床ライナの板厚や腐食対策は詳細設計事項であり、設置許可段階では「ライナ設置」という基本方針のみが審査対象となる。新知見の腐食(溶融塩型腐食)を考慮しても、後続段階での厚み調整等で対処可能であり、基本設計の合理性は失われない。(2)伝熱管破損について:プラント停止操作や急速ブロー設計により高温ラプチャの抑止効果が期待でき、ウェステージ型破損を支配的と見る解析条件に現在の知見に照らしても不合理はない。(3)反応度抑制機能喪失事象について:発生頻度が極めて低い「5項事象」として、当時の技術水準で可能な解析(SIMMER-II等)を行い、保守的な評価値(380MJ)を導出しており、さらに高い数値を出すパラメータ解析結果を考慮しなかったとしても直ちに不合理とはいえない。
結論
本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるということはできず、本件処分に違法はない。原判決を破棄し、請求を棄却する。
実務上の射程
行政庁の裁量判断を「判断過程」の合理性からコントロールする手法(伊方原発訴訟の枠組み)を承継・維持している。特に「基本設計」と「詳細設計」を峻別し、設置許可段階の審査範囲を画定した点は、実務上、訴訟での争点整理において極めて重要である。
事件番号: 平成2(行ツ)147 / 裁判年月日: 平成4年10月29日 / 結論: 棄却
原子炉設置の許可の段階の安全審査においては、当該原子炉施設の基本設計の安全生にかかわる事項のみをその対象とするものと解すべきである。
事件番号: 平成1(行ツ)131 / 裁判年月日: 平成4年9月22日 / 結論: 棄却
一 行政事件訴訟法三六条にいう「その効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない」とは、当該処分に基づいて生ずる法律関係に関し、処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟によっては、その処分のため被っている不利益を排除することができない場合はもとより、当該処分に起因する紛争を解決…
事件番号: 昭和60(行ツ)133 / 裁判年月日: 平成4年10月29日 / 結論: 棄却
一 原子炉施設の安全性に関する被告行政庁の判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであつて、現在の科学技術水準に照らし、右調査審議…