一 労働者が、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を経ることなく、始期と終期を特定して長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をした場合には、時季変更権の行使において、右休暇が事業運営にどのような支障をもたらすか、右休暇の時期、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関し、使用者にある程度の裁量的判断が認められるが、右判断は、労働者の年次有給休暇の権利を保障している労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三九条の趣旨に沿う合理的なものであることを要し、使用者が労働者に休暇を取得させるための状況に応じた配慮を欠くなど不合理なものであってはならない。 二 科学技術庁の記者クラブに単独配置されている通信社の社会部記者が、使用者との事前の十分な調整を経ることなく、始期と終期を特定して休日等を含め約一箇月の長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をしたのに対し、使用者が右休暇の後半部分について時季変更権を行使した場合において、当時、社会部内において専門的知識を要する右記者の担当職務を支障なく代替し得る記者を長期にわたって確保することが困難であり、また、右単独配置は企業経営上のやむを得ない理由によるものであったなど判示の事情があるときは、右時季変更権の行使は適法である。
一 労働者が始期と終期を特定してした長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定に対する使用者の時季変更権の行使における裁量的判断 二 通信社の記者が始期と終期を特定して休日等を含め約一箇月の長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をしたのに対し使用者が右休暇の後半部分についてした時季変更権の行使が適法とされた事例
労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)39条3項
判旨
労働者が長期連続の年次有給休暇を時季指定した場合、使用者には事業運営への支障や修正の程度についてある程度の裁量的判断が認められ、その判断が不合理でなければ時季変更権の行使は適法となる。
問題の所在(論点)
労働者が長期連続の年次有給休暇を時季指定した場合において、使用者の時季変更権の行使が適法となるための要件、およびその際の使用者の裁量の有無が問題となる(労働基準法39条但書)。
規範
労働者が事前の調整なく長期・連続の年次有給休暇を時季指定した場合、使用者には、休暇が事業運営に与える支障や期間の修正に関し、ある程度の裁量的判断が認められる。この裁量的判断が、労働者に休暇を取得させるための状況に応じた配慮を欠くなど不合理と認められない限り、労働基準法39条(現4項)但書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当し、時季変更権の行使は適法となる。
重要事実
通信社に勤務し、科学技術記者クラブに単独配置されていた記者のXは、約1ヶ月間の長期休暇を時季指定した。当該職務は原子力等の専門知識を要し、代わりの者を確保することが困難であった。会社側は、2回に分けて取得するよう求めたが調整がつかなかったため、休暇後半部分について時季変更権を行使した。しかしXはこれを無視して海外取材旅行に出発したため、会社はXを懲戒処分(けん責)とした。
あてはめ
まず、Xが担当する科学技術分野は高度な専門的知識・経験を要し、部内から代替者を確保することは相当に困難であった。次に、単独配置は企業経営上のやむを得ない理由によるもので不適正な人員配置とはいえない。また、Xは1ヶ月という長期休暇について事前調整を欠いていた。これに対し、会社側は休暇の前半分は容認し、分割取得を提案するなど、時季指定に対する相当の配慮を示している。以上より、本件時季変更権の行使における使用者の裁量的判断は不合理とはいえない。
結論
本件時季変更権の行使は適法であり、これに違反したXに対する懲戒処分も有効である(原審の判断には法令の解釈適用の誤りがある)。
実務上の射程
長期休暇における時季変更権の要件を緩和した判例であり、実務上、事前の調整がない長期指定に対しては使用者の広い裁量を認める根拠となる。答案上は、通常の時季指定と「長期連続の時季指定」を区別し、後者では「裁量的判断」の枠組みを用いるべきである。
事件番号: 昭和60(オ)989 / 裁判年月日: 昭和62年9月22日 / 結論: その他
勤務割における勤務予定日につき年次休暇の時季指定がされた場合であつても、使用者が、通常の配慮をすれば勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能であるときに、休暇の利用目的を考慮して勤務割変更のための配慮をせずに時季変更権を行使することは、許されない。
事件番号: 昭和62(オ)1555 / 裁判年月日: 平成元年7月4日 / 結論: 棄却
一 労働者が勤務割による勤務予定日につき年次休暇の時季指定をしたのに対し、使用者が代替勤務者確保のための配慮をせずに時季変更権を行使した場合であつても、当該事業場における勤務割の変更の方法及びその頻度、使用者の従前の対応、代替勤務の可能性、週休制の運用、当該時季指定の時期などに照らして、使用者が通常の配慮をしたとしても…
事件番号: 平成8(オ)1026 / 裁判年月日: 平成12年3月31日 / 結論: 破棄差戻
事業遂行に必要な技術者の養成と能力向上を図るため、各職場の代表者を参加させて、一箇月に満たない比較的短期間に集中的に高度な知識、技能を修得させ、これを職場に持ち帰らせることによって、各職場全体の業務の改善、向上に資することを目的として行われた訓練の期間中に、訓練に参加している労働者から年次有給休暇が請求されたときは、使…