歯科医師が、所得税の確定申告において、租税特別措置法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)二六条一項に基づくいわゆる概算経費により事業所得金額を計算していた場合に、診療経費総額を自由診療収入分と社会保険診療報酬分に振り分ける計算を誤り、自由診療収入分の必要経費を正しく計算した場合よりも多額に、社会保険診療報酬分の実額経費を正しく計算した場合よりも少額に算出したため、右実額経費によるよりも概算経費による方が有利であると判断して後者を選択したものであり、診療総収入から控除されるべき必要経費の計算には誤りがあるなど判示の事実関係の下においては、修正申告をするに当たり、確定申告における必要経費の計算の誤りを是正する一環として、概算経費選択の意思表示を撤回し、実額経費を社会保険診療報酬の必要経費として計上することが許される。
所得税の確定申告において租税特別措置法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)二六条一項に基づくいわゆる概算経費により事業所得金額を計算していた場合に修正申告においていわゆる実額経費に変更することが許されるとした事例
国税通則法19条1項,所得税法27条,所得税法(昭和62年法律第96号による改正前のもの)37条1項,租税特別措置法(昭和63年法律第109号による改正前のもの)26条1項,租税特別措置法(昭和63年法律第109号による改正前のもの)26条3項
判旨
租税特別措置法に基づく概算経費の選択が錯誤に基づく場合、修正申告の要件を満たす限りにおいて、当該選択を撤回し実額経費を計上することができる。納税者が経費配分の計算誤りにより概算経費を有利と誤認して選択した本件では、その撤回を含む修正申告は適法である。
問題の所在(論点)
確定申告において一度選択した租税特別措置法上の概算経費課税の特例について、後に錯誤を理由として撤回し、修正申告において実額経費へ変更することが許されるか。
規範
納税者が確定申告において租税特別措置法26条1項の概算経費を選択した場合であっても、その意思表示が錯誤に基づくときは、国税通則法19条1項1号の修正申告の要件(税額を増加させること)を満たす限り、確定申告における必要経費の計算の誤りを是正する一環として、概算経費選択の意思表示を撤回し、実額経費を計上することができる。
重要事実
歯科医である納税者が、確定申告に際し、診療経費総額を自由診療分と社会保険診療分に振り分ける計算過程において、分母の選択を誤るという計算ミスを犯した。その結果、実額経費を本来(約1948万円)より少なく(約1735万円)算出したため、概算経費(約1802万円)の方が有利であると誤認してこれを選択した。後に誤りに気付き、自由診療収入の計上漏れ修正と併せて、社会保険診療報酬の必要経費を実額経費に改め、税額を増加させる修正申告を行ったが、税務署長は概算経費の変更を認めず更正処分等を行った。
あてはめ
本件における納税者の概算経費選択は、客観的に明らかな計算上の誤りにより、実額経費よりも概算経費が有利であると誤信してなされたものであり、錯誤に基づく意思表示といえる。また、本件修正申告は、自由診療分の必要経費の過大計上を是正し、実額経費への変更を含めてもなお必要経費の総額を減少させ、結果として税額を増加させるものである。したがって、修正申告の要件を充足しており、錯誤に基づく選択の撤回を認めるのが相当である。
結論
概算経費選択の撤回を伴う修正申告は適法であり、これを認めず概算経費を適用してなされた更正処分等は違法として取り消されるべきである。
実務上の射程
本判決は、選択申告における意思表示の錯誤と、修正申告による是正の許容範囲を示したものである。修正申告が「税額を増加させる」という形式的要件を満たし、かつ当初の選択が客観的な計算誤り等の錯誤に基づく場合には、有利な課税方式への変更も認められ得る。答案上は、申告内容の是正が信義則等で制限されるか否かの文脈でも活用できる。
事件番号: 昭和63(行ツ)192 / 裁判年月日: 平成2年3月23日 / 結論: 棄却
給与所得者が、自家用自動車を譲渡した場合において、当該自動車の全走行距離の約八パーセントを通勤のために使用しているにすぎないなど判示の事情の下においては、当該自動車は所得税法六九条二項にいう「生活に通常必要でない資産」に当たり、その譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額を同人の給与所得の金額から控除することはできない。
事件番号: 昭和59(行ツ)302 / 裁判年月日: 昭和62年5月8日 / 結論: 棄却
国税通則法六八条一項の重加算税を課し得るためには、納税者が申告に際し過少申告を行うことの認識を有していることは必要でない。
事件番号: 平成18(行ヒ)295 / 裁判年月日: 平成19年7月6日 / 結論: その他
納税者が平成12年分の所得税の確定申告において勤務先の日本法人の親会社である外国法人から付与されたストックオプションの権利行使益を一時所得として申告したところ,同権利行使益が給与所得に当たるとして増額更正がされた場合において,次の(1)〜(3)などの判示の事情の下では,納税者が同権利行使益を一時所得として申告し,同権利…