宗教団体内でされた懲戒処分の効力の有無の確認を求める訴えは、その処分が、当該宗教団体内部における被処分者の宗教活動を制限し、あるいはその宗教上の地位に関する不利益を与えるものにとどまる場合は、不適法である。
宗教団体内でされた懲戒処分の効力の有無の確認を求める訴えの適否
裁判所法3条,民訴法225条
判旨
宗教団体内部の懲戒処分が、宗教上の地位の喪失や宗教活動の制限に留まる場合、その効力の有無は具体的な権利義務に関する紛争に当たらず、司法審査の対象とならない。
問題の所在(論点)
宗教団体内部で行われた僧侶に対する懲戒処分の無効確認を求める訴えが、裁判所法3条1項の「法律上の争訟」に該当し、司法審査の対象となるか。
規範
裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」とは、当事者間の具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法律を適用することにより終局的に解決することができるものをいう。宗教団体内部の懲戒処分が、単に宗教活動を制限し、又は団体内部の宗教上の地位に関する不利益を与えるに留まる場合、その処分の効力の有無を求める紛争は「具体的な権利又は法律関係に関する紛争」に該当せず、司法審査の対象外となる。処分に伴い経済的・市民的生活上の不利益が生じるとしても、その不利益が直ちに処分の効力自体を法律上の争訟とするものではない。
重要事実
上告人は包括宗教法人である被上告人の傘下にあるD寺の住職・代表役員であった。被上告人は、上告人が宗務所を不法占拠し秩序を乱したとして、重懲戒7年の懲戒処分(本件処分)を行った。上告人は、本件処分により他寺院での活動制限や住職・代表役員の地位喪失という不利益を被り、経済的にも重大な影響を受けると主張して、本件処分の無効確認を求めた。原審は、具体的な権利関係に変動を生じさせるとして適法な訴えと認めたが、請求自体は棄却したため、上告人が上告した。
あてはめ
本件処分は宗教団体内部の規律違反を理由として、僧侶としての宗教活動の制限や団体内の地位を剥奪するものである。上告人が主張する住職としての地位は、本件では単なる宗教上の地位を超える法律関係(世俗的な権利)を含むものとは認められない。また、宗教法人D寺の代表役員の地位喪失については、被上告人ではなくD寺との間の紛争である。本件処分によって結果的に収入減少等の経済的・市民的生活上の不利益が生じるとしても、処分そのものは宗教団体内部の規律に関する事柄であって、直ちに具体的な権利義務に関する紛争には転化しない。したがって、本件処分の効力の有無は「法律上の争訟」に当たらない。
結論
本件訴えは、具体的な権利義務に関する紛争とはいえず、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に該当しないため、不適法として却下される。
実務上の射程
宗教団体の内部紛争に関する司法審査の限界を示した重要判例である。答案上は、まず「法律上の争訟」の定義(2要件)を示した上で、本判例を引用し、宗教上の地位や規律の問題が世俗的な権利義務の存否と直結しない限り、訴えを不適法(却下判決)とすべきとする論理展開に用いる。
事件番号: 昭和27(オ)145 / 裁判年月日: 昭和33年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】宗派の管長が、住職から提出された誓約書に基づき、宗制上の一般懲戒規定によらずに退職処分を行うことは、宗制が管長に任免権を付与し、かつ処分事由が客観的に認められる限りにおいて有効である。 第1 事案の概要:浄土真宗本願寺派(B寺派)の末寺住職に就任した上告人は、就任に際し、部内の和合を破る等の条項に…
事件番号: 平成2(オ)1231 / 裁判年月日: 平成5年7月20日 / 結論: 棄却
宗教法人がその所有する建物の明渡しを求める訴訟において、訴訟が提起されるに至った紛争の経緯及び当事者双方の主張並びに訴訟の経過に照らして、当該訴訟の争点を判断するには、宗教上の教義ないし信仰の内容について一定の評価をすることを避けることができない場合には、右の明渡しを求める訴えは、裁判所法三条にいう「法律上の争訟」に当…
事件番号: 昭和61(オ)944 / 裁判年月日: 平成元年9月8日 / 結論: 棄却
甲が乙宗教団体から受けた擯斥処分によりその僧侶たる地位を喪失したか否かが、自己が乙の被包括宗教団体である丙の代表役員及び責任役員の地位にあることの確認を求める甲の請求の前提をなしている場合において、右処分の効力の有無が紛争の本質的争点をなすとともに、その効力についての判断が訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものであり、…