特許請求の範囲の記載文言自体は訂正されていない場合でも、特許請求の範囲に記載されている「固定部材」の技術的意義が一義的に明確とはいえず、発明の詳細な説明及び図面から接着剤(接着層)をもつて「固定部材」とする記載をすべて削除する訂正審決が確定したときは、特許請求の範囲に記載されている「固定部材」は、接着剤(接着層)を含まないものに減縮される。
特許請求の範囲の記載文言自体は訂正されていなくても発明の詳細な説明及び図面の訂正により特許請求の範囲の減縮があつたとされる場合
特許法36条,特許法126条
判旨
特許出願の明細書や図面から特定の記載を削除する訂正審判の審決が確定した場合、特許請求の範囲の記載自体に変更がなくとも、出願時に遡って当該記載を参酌した発明の要旨認定を行うことは許されなくなる。
問題の所在(論点)
訂正審判によって明細書や図面の記載が削除された場合、特許請求の範囲の記載文言が変更されていなくとも、従前の明細書等に基づき認定されていた発明の要旨(特許法70条1項・2項関連)は遡及的に制限されるか。
規範
特許請求の範囲の記載文言が技術的に一義的に明確でない場合、明細書の発明の詳細な説明や図面を参酌して発明の要旨を認定すべきであるが、訂正審判により特定の構成(例:接着層)に関する記載が削除された場合には、出願時に遡って当該構成を特許請求の範囲に含むものと解釈する余地はなくなる。
重要事実
本件特許の請求範囲には「固定部材」との記載があり、原審は明細書中の「接着層」に関する記述を参酌して、固定部材に接着剤が含まれると認定した。しかし、原審判決後の上告審係属中に、明細書及び図面から接着層に関する記載を削除する訂正審判の審決が確定した。この訂正は、明瞭でない記載の釈明または特許請求の範囲の減縮を目的とするものであった。
あてはめ
確定した訂正審決により、本件明細書等から接着層に関する図面(第12図、第13図)及び説明部分が削除された。これにより、たとえ特許請求の範囲の「固定部材」という文言自体は不変であっても、参酌すべき資料が遡及的に消滅した以上、固定部材に接着剤が含まれると解釈する根拠が失われたといえる。したがって、本件発明の構成は出願当初に遡って接着層を含まないものに減縮されたと評価すべきである。
結論
本件発明の要旨を接着剤を含むものと認定した原判決は、その基礎となった行政処分が変更された場合に準じ、判決に影響を及ぼす明らかな法令違背があるため破棄を免れない。
実務上の射程
特許法70条に基づく発明の要旨認定において、明細書の参酌が不可欠である実務上、訂正審判による明細書等の「削除」が特許請求の範囲の実質的な減縮(射程の限定)を導くことを示した。答案上は、事後的な訂正が既になされた判決の効力(民訴法420条1項8号類推)に影響を与える文脈で活用できる。
事件番号: 昭和57(行ツ)147 / 裁判年月日: 昭和58年3月3日 / 結論: 棄却
実用新案登録の審決取消訴訟において、その基礎となる登録査定が将来訂正審決により変更される可能性があるとしても、上告理由となるものではない。