別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として、相殺の抗弁を主張することは、許されない。
別訴において訴訟物となっている債権を自働債権とする相殺の抗弁の許否
民法505条,民訴法199条2項,民訴法231条
判旨
係属中の別訴において訴訟物となっている債権を、他の訴訟において自働債権として相殺の抗弁を主張することは、民事訴訟法142条(重複起訴の禁止)の規定の趣旨に照らし許されない。
問題の所在(論点)
既に別訴において訴訟物として係属している債権を、他の訴訟において自働債権として相殺の抗弁に供することが、民訴法142条(重複起訴の禁止)の趣旨に反し、許されないか。
規範
民訴法142条(重複起訴の禁止)の趣旨は、審理の重複による無駄の回避および既判力ある判断の矛盾防止にある。相殺の抗弁が提出された自働債権の存否の判断は、対抗額において既判力を有する(同法114条2項)以上、別訴の訴訟物と自働債権が同一である場合にも同条の趣旨が妥当する。したがって、既に従前の訴えの訴訟物となっている債権を、後訴の相殺の抗弁に供することは許されない。
重要事実
被上告人(原告)は、上告人(被告)に対し、輸入原材料残代金等の支払を求めて本訴を提起した。これに対し上告人は、別訴(売買代金等請求事件)において自ら請求していた売買代金債権を自働債権として、本訴の控訴審において相殺の抗弁を主張した。なお、本訴と別訴は同一の裁判所(東京高裁)に係属し、併合審理されていた。
事件番号: 平成30(受)2064 / 裁判年月日: 令和2年9月11日 / 結論: 破棄自判
請負契約に基づく請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴請求債権とし,他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属中に,本訴原告が,反訴において,上記本訴請求債権を自働債権とし,上記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張することは許される。
あてはめ
上告人が本訴で相殺に供した売買代金債権は、別訴において自ら訴訟物として請求している債権そのものである。この債権について本訴で相殺の判断がなされると、別訴の判決による既判力ある判断と、本訴の相殺の判断(114条2項)による既判力ある判断が重複することになる。これは、審理を重複させ、判断の矛盾を招くおそれがある。たとえ両事件が同一裁判所に併合審理されている場合であっても、独立した手続における既判力の抵触を防止すべき必要性に変わりはなく、右抗弁の主張は許されないと解される。
結論
本件相殺の抗弁は重複起訴禁止の趣旨に抵触するため却下されるべきであり、これを許さなかった原審の判断は正当である。
実務上の射程
別訴を先行させている場合に「反訴」を提起するのではなく「相殺の抗弁」として提出する場合の制限を画した重要判決である。答案上は、142条の直接適用ではなく「趣旨を援用」する形で論証を展開する。なお、実務上、どうしても相殺による解決を図りたい場合は、別訴を取り下げて本訴に集約するか、予備的反訴等の構成を検討する必要がある。
事件番号: 平成6(オ)698 / 裁判年月日: 平成10年6月30日 / 結論: 破棄差戻
一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えを提起している場合において、当該債権の残部を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは、債権の分割行使をすることが訴訟上の権利の濫用に当たるなど特段の事情の存しない限り、許される。
事件番号: 平成25(オ)918 / 裁判年月日: 平成27年12月14日 / 結論: その他
本訴において訴訟物となっている債権の全部又は一部が時効により消滅したと判断されることを条件として,反訴において,当該債権のうち時効により消滅した部分を自働債権として相殺の抗弁を主張することは許される。