痘そうの予防接種によって重篤な後遺障害が発生した場合には、予防接種実施規則(昭和四五年厚生省令第四四号による改正前の昭和三三年厚生省令第二七号)四条の禁忌者を識別するために必要とされる予診が尽くされたが禁忌者に該当する事由を発見することはできなかったこと、被接種者が右後遺障害を発生しやすい個人的素因を有していたこと等の特段の事情が認められない限り、被接種者は禁忌者に該当していたものと推定すべきである。
痘そうの予防接種による重篤な後遺障害の発生と予防接種実施規則(昭和四五年厚生省令第四四号による改正前の昭和三三年厚生省令第二七号)四条の禁忌者に該当したことの推定
国家賠償法1条,予防接種法(昭和45年法律第111号による改正前のもの)2条2項,予防接種法(昭和45年法律第111号による改正前のもの)15条,予防接種実施規則(昭和33年厚生省令第27号。昭和45年厚生省令第44号による改正前のもの)4条
判旨
予防接種により重篤な後遺障害が発生した場合、特段の事情がない限り、被接種者は禁忌者に該当していたと推定される。そのため、禁忌者を識別するための予診を尽くしたか否かが、実施者の過失認定において不可欠な審理対象となる。
問題の所在(論点)
国家賠償法1条1項の過失の判断において、予防接種による後遺障害の発生から被接種者が「禁忌者」であったと事実上推定できるか。また、予診義務の尽くし方が過失の有無にどう影響するか。
規範
予防接種により重篤な後遺障害が発生した場合、①予診を尽くしたが禁忌事由を発見できなかったこと、又は②被接種者が後遺障害を発生しやすい個人的素因を有していたこと等の特段の事情が認められない限り、被接種者は禁忌者に該当していたと推定するのが相当である。したがって、実施者に過失がないとするためには、禁忌者を識別するために必要とされる予診を尽くしたことを要する。
重要事実
幼児Aは、集団予防接種の5日前に38.8度の発熱と咽頭発赤で感冒と診断され投薬を受けた。接種当日には解熱していたが、接種後に種痘後脳炎(脊髄炎型)を発症し、下半身麻痺等の重篤な後遺障害を残した。原審は、咽頭炎は治癒しておりAは禁忌者に該当しないため、仮に予診が不十分でも過失と損害に因果関係はないとして請求を棄却した。
あてはめ
予防接種による後遺障害は、禁忌者への接種か個人的素因により生じるが、前者の可能性がはるかに高い。本件ではAに後遺障害が生じており、禁忌者であった蓋然性が高い。原審は咽頭炎の治癒を解熱のみで判断し、母親の観察に依拠して禁忌者でないと断定したが、これは不十分である。被告側において、必要な予診を尽くしたことやAが個人的素因を有していたことを立証しない限り、Aは禁忌者であったと推定されるため、予診の不備は過失に直結し得る。
結論
実施者が禁忌者を識別するための予診を尽くしたか否かを審理せずに過失を否定した原審には、審理不尽の違法がある。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
医療過誤における事実上の推定を認めた重要な判例。答案では、過失の前提となる「禁忌者への接種」という事実認定において、結果から原因を逆推計するロジックとして活用する。特に、予診の不備が主張される事案で、被告側に「予診を尽くしたこと」の事実上の反証を求める文脈で用いる。
事件番号: 昭和59(オ)43 / 裁判年月日: 昭和60年12月13日 / 結論: 破棄差戻
新生児が核黄疸による脳性麻痺に罹患したことにつき、担当医師が新生児に投与したリンコシンがビリルビン転送機能障害の副作用を有するネオマイシン系抗生物質に属し、右投与が黄疸を増強させたとの事実を認定して、医師の過失を肯定している場合において、リンコシンがネオマイシン系抗生物質に属することの証拠がない等判示の事実関係があると…