漫画の主人公の観念、称呼を生じさせる登録商標の商標登録出願当時、既にその主人公の名称が漫画から想起される人物像と不可分一体のものとして世人に親しまれていた場合において、右主人公の名称の文字のみから成る標章が右漫画の著作権者の許諾に基づいて商品に付されているなど判示の事情の下においては、右登録商標の商標権者が右標章につき登録商標の商標権の侵害を主張することは、権利の濫用として許されない。
商標権侵害の主張が権利の濫用に当たるとされた事例
商標法25条,商標法37条,民法1条3項
判旨
著名な漫画キャラクターの名称と不可分一体の人物像を想起させる登録商標に基づき、著作権者の許諾を得た正当な使用者に対して商標権を行使することは、公正な競業秩序を乱すものとして権利の濫用にあたる。
問題の所在(論点)
著名な漫画キャラクターの名称と同一または類似の登録商標を有する者が、当該キャラクターの著作権者から適法に許諾を受けて商品化を行っている者に対し、商標権侵害を主張することが権利の濫用にあたるか。
規範
商標法は客観的に公正な競業秩序を維持することを法目的の一つとする。著名なキャラクターの名称等が、特定の人物像と不可分一体のものとして世人に親しまれ、その著名性を無償で利用しているに等しい商標権を有する場合、当該キャラクターの著作権者から適法に許諾を受けた者に対し、商標権の侵害を主張することは、公正な競業秩序を乱すものとして権利の濫用(民法1条3項)となり、許されない。
重要事実
漫画「ポパイ」は、商標登録出願当時から世界的に著名なキャラクターであり、その名称は特定の人物像と不可分に結びついていた。被上告人は、この「ポパイ」の図形と文字から成る商標権を譲り受け、マフラーに「POPEYE」の文字(乙標章)を付して販売する上告人に対し、商標権侵害に基づく損害賠償を請求した。しかし、上告人が販売していた商品は、米国著作権者から正当にキャラクターの複製許諾を受けた者(株式会社K)から仕入れたものであった。
あてはめ
本件商標は、出願当時から世界的に定着していた「ポパイ」の人物像の観念・称呼を生じさせるものであり、その著名性を無償で利用している。一方、上告人は「ポパイ」の著作権者から独占的利用権を許諾された者の関連会社から、適法にキャラクターの使用を許諾された商品を仕入れて販売している。このような正当な権源に基づく利用者に対し、著名なキャラクターの顧客吸引力に便乗した商標権を行使することは、商標法の目的である公正な競業秩序を著しく乱す行為であると評価される。
結論
被上告人による商標権の行使は権利の濫用にあたり、損害賠償請求は認められない。
実務上の射程
登録無効の審決が確定する前であっても、権利行使が「客観的に公正な競業秩序」に反する場合には、権利濫用の抗弁により請求を遮断できることを示した。特に、他人の著名な著作物やキャラクターに便乗した商標(いわゆるフリーライド)の権利行使を制限する際の有力な根拠となる。後の「キタキツネ事件」等、特段の事情による権利濫用の法理の先駆けといえる。
事件番号: 平成14(受)1100 / 裁判年月日: 平成15年2月27日 / 結論: 棄却
1 商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき,その登録商標と同一の商標を付されたものを輸入する行為は,(1) 当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり,(2) 当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若し…
事件番号: 昭和54(オ)145 / 裁判年月日: 昭和56年10月13日 / 結論: 棄却
一 不正競争防止法一条一項一号にいう他人の商品との混同の事実が認められる場合には、特段の事情がない限り、右他人は営業上の利益を害されるおそれがある者にあたるというべきである。 二 商標権者が登録商標に類似する標章を使用する行為は、不正競争防止法六条にいう「商標法ニ依リ権利ノ行使ト認メラルル行為」に該当しない。
事件番号: 昭和28(オ)500 / 裁判年月日: 昭和30年9月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧商標法9条1項前段(現行法に相当する規定を含む)の規定に基づき標章を継続使用する場合には、商標権者の同意や通知を要しない。 第1 事案の概要:上告人は、商標権の共有持分の譲渡等に関連し、標章の継続使用(旧商標法9条1項前段)にあたって同意や通知が必要であると主張して争ったが、原審はこれを否定した…