民法七二四条後段の規定は、不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めたものである。
民法七二四条後段の法意
民法724条
判旨
不法行為による損害賠償請求権の20年の期間(旧民法724条後段)は、法律関係の速やかな確定を目的とする除斥期間である。除斥期間の経過による権利消滅は当然に生じ、信義則違反や権利濫用の法理を適用してその効果を否定することはできない。
問題の所在(論点)
不法行為による損害賠償請求権の20年の期間(旧民法724条後段)の法的性質は消滅時効か除斥期間か。また、同期間の経過による権利消滅の主張に対し、信義則違反や権利濫用の主張が認められる余地はあるか。
規範
民法724条後段(改正前)の20年の期間は、損害及び加害者の認識という主観的事情に左右される前段の短期時効とは異なり、被害者の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため、請求権の存続期間を画一的に定めた除斥期間であると解する。除斥期間である以上、期間の経過により請求権は当然に消滅し、裁判所は当事者の主張がなくともこれに基づき判断すべきである。
重要事実
昭和24年2月、不発弾処理の防火活動に従事していた被害者B1は、巡査らの過失により不発弾の爆破に巻き込まれ重傷を負った。国は一時金等を支払ったが、B1らは事故から28年10か月が経過した昭和52年12月に、国家賠償法1条に基づき損害賠償を求めて提訴した。国側は20年の期間経過による権利消滅を主張したが、原審はこれを「消滅時効」または「中断を認める弱い除斥期間」と解し、国の主張は信義則違反または権利濫用にあたると判示した。
あてはめ
本件事故が発生した昭和24年2月14日から提訴まで、28年を超える歳月が経過している。20年の期間を「法律関係の速やかな確定」を趣旨とする除斥期間と解する以上、期間の経過により本件請求権は法律上当然に消滅する。除斥期間には時効のような中断や停止の概念はなく、また画一的な確定を目的とする性質上、信義則違反や権利濫用という主観的・個別的事由による修正を認めることは、除斥期間を定めた規定の趣旨に反する。したがって、国の主張を排斥した原審の判断は誤りである。
結論
本件請求権は20年の除斥期間の経過により当然に消滅しており、国に対する賠償請求は認められない。
実務上の射程
長期の不法行為(旧法下)における期間制限の絶対性を強調する判例。ただし、その後の最判平10.6.12(予防接種被害)や最判平21.4.28(水俣病)等により、身体侵害等の事案では起算点や信義則の適用につき事実上の修正がなされている点に注意が必要。現行法では本期間は20年の「消滅時効」として明文化された(724条2号)。
事件番号: 令和5(オ)1341 / 裁判年月日: 令和6年7月3日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】旧優生保護法に基づく強制不妊手術による国家賠償請求権について、除斥期間(改正前民法724条後段)の経過による消滅を認めることが著しく正義・公平の理念に反し到底容認できない場合には、裁判所は、同条に基づく主張を信義則違反または権利濫用として拒絶できる。 第1 事案の概要:上告人らは旧優生保護法に基づ…
事件番号: 昭和49(行ツ)109 / 裁判年月日: 昭和50年9月11日
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間について、民法724条後段(改正前)の20年は除斥期間であり、時効の中断(更新)や停止に関する規定は適用・類推適用されない。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人に対し、不法行為(医療事故等)を原因とする損害賠償請求訴訟を提起した。しかし、当該不法行為が…