組合員に対する賃金カットが労働組合法七条一号及び三号所定の不当労働行為に当たる場合に、当該組合員が、賃金カット後に組合員資格を喪失しても、積極的に、権利を放棄するか又は労働組合の救済命令申立てを通じて権利の回復を図る意思のないことを表明しない限り、労働組合は、当該組合員に対する賃金の支払を命ずる救済命令を求めることができる。
労働組合が組合員資格を喪失した者に対する賃金の支払を命ずる救済命令を求めることができる場合
労働組合法27条4項
判旨
不当労働行為による賃金カット等の救済に関し、労働組合は正常な集団的労使関係秩序を回復・確保するための固有の利益を有するため、対象労働者が組合員資格を喪失した後であっても、原則として救済を求めることができる。
問題の所在(論点)
労働組合が不当労働行為の救済を申し立てた後、対象となる労働者が組合員資格を喪失した場合において、労働組合に救済を求める固有の利益(救済利益)が認められるか、またその要件が問題となる。
規範
労働委員会による救済命令制度(労組法27条)は、団結権等を侵害する不当労働行為の禁止(同法7条)の実効性を担保し、正常な集団的労使関係秩序を回復・確保するためのものである。したがって、労働組合は不当労働行為による抑圧的効果を除去するための固有の救済利益を有する。組合員が組合員資格を喪失しても、不当労働行為の侵害的効果が消失するわけではないため、特段の事情がない限り、労働組合の救済利益は消滅しない。ただし、賃金支払等の個人的利益の回復を伴う救済については、当該労働者が積極的に権利を放棄し、または救済を求めない意思を表明した場合には、これを求めることはできない。
重要事実
会社は、組合のストライキに対する報復として、組合員25名が一部不就労であったにもかかわらず全日ストライキ扱いにし、賃金カット(本件賃金カット)を行った。労働委員会はこれが不当労働行為に当たると認定し、賃金支払および誓約書の掲示等を命じた。しかし、対象者のうち11名は、救済命令が出る前に退職や配転によって組合員資格を喪失していた。原審は、資格喪失者に対する救済は組合自体の利益回復に寄与しないとして、当該11名分の救済命令を取り消したため、組合側が上告した。
あてはめ
本件賃金カットはストライキへの報復であり、組合員の活動意思を萎縮させ、組合運営に支配介入する効果を伴う。したがって、組合は不当労働行為の効果を除去し、集団的労使関係を正常化する固有の利益を有する。本件の11名は、賃金カットを放棄する意思表示をしておらず、むしろ組合から立替払を受け受領権限を委託するなど、救済を拒否する態度は見られない。また、誓約書の交付・掲示命令は、専ら組合活動への侵害除去を目的とするものであるから、労働者の個人的意思にかかわらず、組合はこれを受ける固有の利益を有する。
結論
対象労働者が組合員資格を喪失しても、本人が救済を拒絶する明確な意思表示をしない限り、労働組合は当該労働者に係る賃金支払や誓約書掲示の救済を求めることができる。
実務上の射程
労働組合の救済利益を個人の利益から独立した「固有の利益」と構成した点に特徴がある。答案では、不当労働行為の集団的側面を強調し、組合員資格の喪失や個人の意思(明示的な放棄がない場合)にかかわらず、組合による救済申立てが維持される根拠として本法理を用いる。
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