すべての原因による不就労を基礎として算出した前年の稼働率が八〇パーセント以下の従業員を翌年度のベースアップを含む賃金引上げの対象者から除外する旨の労働協約条項は、そのうち労働基準法又は労働組合法上の権利に基づくもの以外の不就労を稼働率算定の基礎とする部分は有効であるが、右各権利に基づく不就労を稼働率算定の基礎とする部分は公序に反し無効である。
前年の稼働率によって従業員を翌年度の賃金引上げ対象者から除外する旨の労働協約条項の一部が公序に反し無効とされた事例
民法90条,労働基準法39条,労働基準法65条,労働基準法66条,労働基準法67条,労働基準法68条,労働基準法76条,労働組合法第2章,労働組合法14条,労働組合法16条,憲法28条
判旨
労働協約において不就労を理由に賃金引上げ対象から除外する条項は、労基法等上の権利に基づく不就労を算定基礎とすることで権利行使を抑制し、法が権利を保障した趣旨を実質的に失わせる場合には、公序に反し無効となる。
問題の所在(論点)
労基法や労組法上の権利に基づく不就労を欠勤扱いとして、賃金引上げの対象から除外する労働協約の条項は、公序良俗に反し無効となるか。また、その無効の範囲はどうなるか。
規範
稼働率の低い者につき経済的利益を与えない制度は、特段の事情がない限り一応の経済的合理性を有する。しかし、当該制度が労基法又は労組法上の権利に基づく不就労を算定基礎に含める場合において、基準となる数値との関連で、権利行使により経済的不利益を課すことで権利行使を抑制し、ひいては各法が労働者に権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるときは、公序(民法90条)に反し無効となる。
重要事実
会社は、従業員の稼働率向上を目的に、前年の稼働率が80%以下の者を賃金引上げの対象から除外する「本件80パーセント条項」を労働組合と合意した。この稼働率の算定には、欠勤や遅刻のほか、年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休業、労働災害による休業、組合活動による不就労がすべて含まれていた。賃金引上げにはベースアップ分も含まれ、一度除外されると後の退職金等にも影響する仕組みであった。原審は条項全体を無効としたが、会社が上告した。
あてはめ
本件条項は、産休や労災等の比較的長期の不就労があれば、僅かな有休取得のみで容易に「80%以下」に該当し、賃上げ対象から除外される。除外による経済的不利益は、ベースアップの喪失や退職金への波及等、将来にわたるため甚大である。このような仕組みは、労働者が権利行使を差し控えようとする機運を生じさせ、事実上の抑制力が相当に強いといえる。したがって、労基法・労組法上の権利に基づく不就労を算定基礎に含める部分は、法の趣旨を実質的に失わせるものであり公序に反する。もっとも、これら以外の不就労を基礎とする限りにおいては合理性があり、一部無効にとどまる。
結論
本件条項のうち、労基法又は労組法上の権利に基づく不就労を稼働率算定の基礎としている部分は、公序に反し無効である。一方、それ以外の不就労を基礎とする部分は有効である(一部無効)。
実務上の射程
労働協約であっても私的自治の限界として公序良俗による制約を受けることを示した。答案上は、不利益の内容(ベア分か等)や数値の厳しさ(80%等)を検討し、権利行使への「事実上の抑制力」の程度から公序違反を判断する枠組みとして用いる。全部無効ではなく一部無効に留めた点も、条項の可分性や当事者の意思を考慮する際の参考となる。
事件番号: 平成4(オ)1078 / 裁判年月日: 平成5年6月25日 / 結論: 棄却
タクシー会社の乗務員に対し、月ごとの勤務予定表どおり勤務した場合には月額三一〇〇円ないし四一〇〇円の皆勤手当を支給するが、右勤務予定表作成後に年次有給休暇を取得した場合には右手当の全部又は一部を支給しない旨の約定は、右手当の支給が代替要員の手配が困難となり自動車の実働率が低下する事態を避ける配慮をした乗務員に対する報奨…