大韓民国法を準拠法とする離婚に伴う財産分与及び慰藉料請求において、財産分与請求を認めない同国の民法のもとで有責配偶者が支払うべきものとされる慰藉料の額がわが国の離婚給付の社会通念に照らして著しく低額であると認められる場合には、右財産分与請求につき同法を適用することは、法例三〇条にいう「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗」に反するものとして、許されない。
離婚に伴う財産分与請求を認めない大韓民国の民法を適用することが法例三〇条にいう「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗」に反するとして許されない場合
法例30条,民法768条,民法771条,大韓民国民法806条1項,大韓民国民法806条2項,大韓民国民法843条
判旨
外国法が離婚に伴う財産分与請求権を認めていない場合でも、慰謝料の算定において財産形成への協力等が考慮され、実質的に財産分与と同一の結果を生み得るならば、直ちに公序(法の適用に関する通則法42条、旧法例30条)に反するとはいえない。
問題の所在(論点)
離婚に伴う財産分与を認めない外国法を準拠法として適用することが、公序(旧法例30条、現行通則法42条)に反し、日本法を適用すべき事由となるか。
規範
準拠法が離婚に伴う財産分与請求権を認めていない場合であっても、同国の慰謝料算定において、婚姻中の協力による財産形成等の事情を斟酌でき、実質的に財産分与と同等の機能を果たしうるならば、直ちに公序に反するとはいえない。しかし、認められる慰謝料額が、当事者の資産、扶養の要否、財産形成への協力等の諸般の事情に照らし、日本の離婚給付(慰謝料・財産分与)の社会通念に反して著しく低額である場合には、公序に反するものとして当該外国法の適用を排除し、日本法(民法768条)を適用すべきである。
重要事実
日本に居住する朝鮮籍の妻(上告人)が、韓国籍の夫(被上告人)に対し、離婚並びに慰謝料300万円及び財産分与1700万円の支払を求めた事案。夫からは継続的な暴力があり、妻は父の援助や自身の経営により財産を形成していた。準拠法たる韓国民法(当時)には財産分与の規定がなかったため、原審は財産分与請求を棄却する一方、財産分与が認められない事情を考慮して慰謝料300万円の請求を全額認容した。
あてはめ
韓国民法には財産分与の規定がないが、有責配偶者の慰謝料算定において、婚姻中に協力して得た財産の有無・内容を斟酌でき、実質的に財産分与と同様の結果を生じさせることが可能である。本件において認められた慰謝料300万円は、夫婦の生活歴や資産状況、妻が自力で店舗を購入した等の諸事情を考慮しても、日本の社会通念における離婚給付として著しく低額であるとまでは認められない。したがって、韓国法の適用を排除すべき公序違反の状況にはないといえる。
結論
本件において財産分与請求権を認めない韓国法を適用することは公序に反しないため、日本法を適用して財産分与を命ずることはできず、上告を棄却する。
実務上の射程
渉外離婚における財産分与の準拠法決定と公序の判断枠組みを示す。通則法42条の適用において、外国法の規定の有無という形式面だけでなく、具体的な給付額が日本の社会通念に照らして「著しく不当か」という実質的な結果を重視する判断手法(結果公序)として重要である。
事件番号: 昭和56(オ)1087 / 裁判年月日: 昭和58年3月10日 / 結論: 棄却
第一審において離婚請求について全部勝訴の判決を受けた当事者も、控訴審において、附帯控訴の方式により新たに財産分与の申立をすることができる。