離婚訴訟において、財産分与を命じた判決に対して控訴の申立てがされた場合、財産分与に関する裁判については、いわゆる不利益変更禁止の原則の適用はない。
離婚訴訟における財産分与の裁判と不利益変更禁止の原則
民法768条,民訴法385条,人事訴訟手続法15条1項ないし3項
判旨
離婚に伴う財産分与の申立ては非訟的性質を有するため、不服申立ての範囲に拘束されず、控訴審において不利益変更禁止の原則は適用されない。
問題の所在(論点)
離婚訴訟に附帯して申し立てられた財産分与に関し、相手方のみが控訴した場合において、控訴裁判所が第1審の定めた額を不利益に変更することが許されるか(不利益変更禁止の原則の適用の有無)。
規範
財産分与の申立て(人事訴訟法32条1項)については、裁判所は当事者の主張に拘束されることなく、職権で正当と認める額を定めるべき非訟的な性質を有する。したがって、当事者の一方のみが控訴した場合であっても、控訴裁判所が第1審の定めた額を不当と判断したときは、第1審判決を控訴人の不利益に変更することが可能であり、民事訴訟法304条(旧385条)の不利益変更禁止の原則は適用されない。
重要事実
離婚訴訟に伴う財産分与の申立てに対し、第1審判決が一定の分与額を定めた。これに対し、分与義務者側(被告)のみが控訴を申し立て、分与権利者側(原告)からは控訴も附帯控訴もなされなかった。しかし、控訴審(原審)は、第1審が定めた分与額を増額し、控訴人に不利益な内容へと判決を変更したため、控訴人が不利益変更禁止の原則違反を理由に上告した。
あてはめ
財産分与は、人事訴訟法15条1項(現行の人訴法32条1項、家事事件手続法等)に基づき、裁判所が自ら正当と認める分与の有無、額及び方法を定めるべき事項である。これは、処分権主義が適用される通常の民事訴訟とは異なり、裁判所の合理的な裁量に委ねられた非訟的事項としての性質を持つ。そのため、控訴審は第1審判決の判断内容を全面的に審査し、正当な額を確定する権限を有しており、当事者の不服申立ての範囲という形式的な制約に縛られることはない。
結論
控訴裁判所は、不利益変更禁止の原則に拘束されることなく、第1審が定めた財産分与額を増額変更することができる。
実務上の射程
本判決は、財産分与が「申立てを待って裁判を行うが、その内容は職権で決する」という非訟的性質を持つことを明確にした。答案上では、処分権主義(民訴法246条)や不利益変更禁止(同304条)の例外として、人事訴訟や非訟事件の特殊性を論じる際に引用すべき射程の広い判例である。現行法下(人事訴訟法・家事事件手続法)においても、この法理は維持されている。
事件番号: 令和3(受)1115 / 裁判年月日: 令和4年12月26日 / 結論: 破棄差戻
離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合において、裁判所が離婚請求を認容する判決をするに当たり、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の一部につき、財産分与についての裁判をしないことは許されない。
事件番号: 平成14(受)505 / 裁判年月日: 平成16年6月3日 / 結論: 破棄差戻
1 離婚の訴えの原因である事実によって生じた損害賠償請求の反訴の提起及び離婚の訴えに附帯してする財産分与の申立てについては,控訴審においても,相手方の同意を要しない。 2 原審の口頭弁論の終結に至るまでに離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合において,上訴審が,原審の判断のうち財産分与の申立てに係る部分について…