検察官が論告において第三者の名誉又は信用を害する陳述をしても、論告の目的、範囲を著しく逸脱し、又は陳述の方法が甚しく不当であるなど訴訟上の権利の濫用に当たる特段の事情のない限り、右陳述は正当な職務行為として国家賠償法一条一項の違法性を阻却される。
論告においてされた第三者の名誉又は信用を害する陳述と国家賠償法一条一項の違法性の阻却
国家賠償法1条1項
判旨
検察官の論告における第三者の名誉毀損的な陳述は、論告の目的・範囲を著しく逸脱したり陳述方法が甚だしく不当であるなど、訴訟上の権利の濫用にあたる特段の事情がない限り、正当な職務行為として違法性を阻却される。
問題の所在(論点)
国家賠償法1条1項の「違法」性の判断において、刑事訴訟手続における検察官の論告内容が第三者の名誉を毀損する場合、いかなる要件の下で違法性が阻却されるか。
規範
検察官の論告は、適正な裁判に資する目的で与えられた訴訟上の権利であり、必要な範囲で自由な陳述が保障される。論告において第三者の名誉等を害する陳述があったとしても、①もっぱら誹謗を目的とする、②事件と無関係である、③明らかに主観や単なる見込みに基づくなど論告の目的・範囲を著しく逸脱する場合、または④陳述方法が甚だしく不当であるなど、権利の濫用にあたる特段の事情がない限り、正当な職務行為として違法性が阻却される。
重要事実
検察官は被告事件の論告において、証人である被告人の兄Dの供述の信用性を論じる際、Dがかつて虚偽の自白をしたのは「被告人(上告人)をかばい、犯行を隠蔽する必要があったからである」旨を陳述した。これに対し、被告人は当該陳述が自身の名誉を毀損する公権力の違法な行使にあたるとして国家賠償を請求した。
あてはめ
本件陳述は、Dの供述の信用性を検討する過程で、その供述動機について一つの見解を述べたものであり、事案の真相解明に必要不可欠な立場からなされた。また、表現方法も被告人の行為を直接特定するものではなく抽象的であり、Dの供述信用性に関する判断に派生的・付随的に述べられたにすぎない。したがって、当該被告事件の目的と密接に関連し、合理的な範囲内に包含される穏当な表現であって、権利の濫用にあたる特段の事情は認められない。
結論
検察官の論告は正当な訴訟上の権利の行使であり、違法性は阻却されるため、公権力の違法な行使にはあたらない。
実務上の射程
訴訟内における検察官の職務行為(特に論告)の違法性阻却事由を具体化した判例である。名誉毀損の一般理論(真実性・公共性等)ではなく、訴訟上の権利の濫用という枠組みで判断する点に特徴がある。答案上は、国家賠償法1条1項の「違法」の文脈で、職務行為の性質に由来する裁量を考慮した判断枠組みとして引用すべきである。
事件番号: 平成6(オ)1287 / 裁判年月日: 平成9年9月9日 / 結論: 棄却
国会議員が国会の質疑、演説、討論等の中でした個別の国民の名誉又は信用を低下させる発言につき、国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を…