国会議員が国会の質疑、演説、討論等の中でした個別の国民の名誉又は信用を低下させる発言につき、国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とする。
国会議員が国会の質疑等の中でした発言と国家賠償責任
国家賠償法1条1項,民法710条,憲法51条,衆議院規則45条1項
判旨
国会議員の質疑等による名誉毀損が国家賠償法1条1項の適用上違法となるのは、職務と無関係な不当な目的がある場合や虚偽を知りながら摘示した場合等、権限の趣旨に明らかに背く特別の事情がある場合に限られる。また、公務員個人の賠償責任は、特段の事情のない限り否定される。
問題の所在(論点)
1. 国会議員の職務上の発言につき、議員個人が民法上の損害賠償責任を負うか。 2. 国会議員による質疑等が国家賠償法1条1項の適用上「違法」と評価されるための要件。
規範
1. 公務員の職務執行上の行為により損害が生じた場合、国が賠償責任を負うのは格別、公務員個人は民法上の損害賠償責任を負わない。 2. 国会議員の質疑等が国賠法1条1項にいう違法となるためには、当該議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような「特別の事情」があることを要する。
重要事実
衆議院議員であった被上告人Bは、衆議院社会労働委員会において医療法改正案の審議中、患者の人権擁護の観点から行政の監督責任を問う趣旨で、札幌市のE病院の院長D(上告人の夫)が患者に対し破廉恥な行為をし、薬物を常用している旨の発言(本件発言)をした。Dはその後自殺し、その妻である上告人が、議員B個人および国に対し損害賠償を求めて提訴した。
あてはめ
1. 本件発言は国会議員としての職務を行うにつきされたものであることが明らかである。したがって、議員B個人は上告人に対し損害賠償責任を負わない。 2. 国の責任について、本件発言は法律案の審議という国会議員の職務に関連して行われた。また、議員Bに不当な目的があったとは認められず、内容が虚偽であると知りながら発言したとも認められない。したがって、権限の趣旨に明らかに背く「特別の事情」は存せず、国賠法上の違法性は認められない。
結論
議員個人の責任については、職務上の行為であるため否定される。国の責任については、職務上の裁量権の範囲内であり、特別の事情が認められないため否定される。
実務上の射程
国会議員の免責特権(憲法51条)を背景としつつ、国賠法上の違法性判断において広範な裁量を認めた重要判例。立法行為の違法性に関する判例(最判昭60.11.21)の理を、意思形成の過程である質疑等にも広げている。答案では、行政庁の裁量逸脱・濫用(最判昭53.10.4等)と比較し、より厳格な違法性判断基準が適用される場面として引用する。
事件番号: 昭和53(オ)1240 / 裁判年月日: 昭和60年11月21日 / 結論: 棄却
一 国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらずあえて当該立法を行うというごとき例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の適用上、違法の評価を受けるものではない。 二 在宅投票制度を廃止しこれを復活しなかつた立法行為は、国家賠償法一条一項にいう違法な行為に当たらない。