一 国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらずあえて当該立法を行うというごとき例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の適用上、違法の評価を受けるものではない。 二 在宅投票制度を廃止しこれを復活しなかつた立法行為は、国家賠償法一条一項にいう違法な行為に当たらない。
一 国会議員の立法行為と国家賠償責任 二 在宅投票制度を廃止しこれを復活しなかつた立法行為の違法性の有無
国家賠償法1条1項,公職選挙法49条1項
判旨
国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらずあえてこれを行うなどの例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けない。
問題の所在(論点)
国会議員の立法行為または立法不作為が、国家賠償法1条1項にいう「公務員が職務上の法的義務に違背」したものとして、違法の評価を受けるための要件(判断基準)。
規範
国会議員の立法行為(不作為を含む)は、本来政治的責任を負うにとどまり、個別の国民に対して職務上の法的義務を負うものではない。したがって、国家賠償法1条1項の適用上違法とされるのは、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず、国会があえて当該立法を行うというような、容易に想定し難い「例外的な場合」に限られる。法律の内容が単に憲法に違反する疑いがあるだけでは、直ちに立法行為が違法となるわけではない。
重要事実
身体の障害等により歩行困難な者について、自宅等で投票できる「在宅投票制度」が昭和27年の法改正により廃止された。原因は同制度の悪用による選挙無効訴訟の続出であった。歩行および車椅子での移動が著しく困難な上告人は、制度廃止により合計8回の選挙で投票できず、精神的損害を被ったと主張して、制度を廃止・放置した立法行為の違憲性を理由に国家賠償を請求した。
あてはめ
憲法には在宅投票制度の設置を積極的に命ずる明文の規定が存在しない。むしろ、憲法47条は投票方法を法律で定めるべきものとし、具体的決定を立法府の広範な裁量に委ねている。昭和26年の制度悪用という実情に鑑みて制度を廃止し、その後に復活させなかった判断は、立法府の裁量権の範囲内である。したがって、本件立法行為が「憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらずあえてこれを行った」というような例外的な場合に当たると解する余地はない。
結論
本件立法行為は国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けないため、賠償請求は認められない。
実務上の射程
立法不作為による国家賠償請求における原則的な判断枠組みとして重要である。ただし、後の在外邦人選挙権制限違憲訴訟(最判平17.9.14)において、選挙権のような基本的人権の本質に関わる場合には「正当な理由なく長期にわたって立法措置を怠る場合」に違法となり得るとされ、本判決の「例外的場合」のハードルが実質的に緩和された点に注意が必要である。
事件番号: 平成17(オ)22 / 裁判年月日: 平成18年7月13日 / 結論: 棄却
平成12年6月に施行された衆議院議員総選挙までに国会が精神的原因によって投票所に行くことが困難な者の選挙権行使の機会を確保するための立法措置を執らなかったことは,上記の者については,その精神的原因が多種多様でその状態が必ずしも固定的ではなく,身体障害者手帳に記載される障害の程度等のように既存の公的な制度によって投票所に…
事件番号: 令和4(行ツ)144 / 裁判年月日: 令和5年9月12日 / 結論: 棄却
憲法53条後段の規定により国会の臨時会の召集を決定することの要求をした国会議員は、内閣による上記の決定の遅滞を理由として、国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることはできない。 (反対意見がある。)