一 水産業協同組合法四五条の準用する民法五四条にいう「善意」とは、理事の代表権に制限を加える定款の規定又は総会の決議の存在を知らないことをいうと解すべきである。 二 水産業協同組合法四五条の準用する民法五四条の「善意」の主張・立証責任は第三者にあるものと解すべきである。 三 第三者が水産業協同組合法四五条の準用する民法五四条にいう善意であるとはいえない場合であつても、第三者において、漁業協同組合の理事が当該具体的行為につき同組合を代表する権限を有するものと信じ、かつ、このように信じるにつき正当の理由があるときは、民法一一〇条を類推適用し、同組合は右行為につき責任を負うものと解するのが相当である。
一 水産業協同組合法四五条の準用する民法五四条にいう「善意」の意義 二 水産業協同組合法四五条の準用する民法五四条の「善意」の主張・立証責任 三 漁業協同組合の理事の行為と民法一一〇条の類推適用
水産業協同組合法45条,民法53条,民法54条,民法110条
判旨
法人の理事が定款の制限に違反して代表権を行使した場合、善意の第三者には対抗できないが、第三者が悪意であっても理事が適法な権限を有すると信じ、かつそう信じるにつき正当な理由があるときは、民法110条を類推適用して法人が責任を負う。
問題の所在(論点)
理事が定款の代表権制限に違反した場合において、制限の存在を知っている(悪意の)第三者が民法110条の類推適用により保護されるための要件およびその主張・立証責任。
規範
1. 定款等による理事の代表権の制限は、善意の第三者に対抗できない。ここにいう「善意」とは、代表権に制限が加えられていることを知らないことをいい、その主張・立証責任は第三者側にある。 2. 第三者が悪意であっても、理事が当該具体的行為につき適法に法人を代表する権限を有するものと信じ、かつ、そのように信じるにつき「正当の理由」があるときには、民法110条を類推適用し、法人はその行為につき責任を負う。
事件番号: 昭和30(オ)648 / 裁判年月日: 昭和32年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成立要件である「正当の理由」の有無は、事実認定の問題であり、原審が証拠に基づいてこれを否定した判断は違法ではない。 第1 事案の概要:上告人の代理人Dが、訴外Eに被上告人を代理して本件土地を売却する権限があるものと信じて取引を行った。上告人は、Dがそのように信じたことについて「正当の理由…
重要事実
漁業協同組合(被上告人)の定款には、固定資産の処分には理事会の決定を要する旨の代表権制限の規定があった。同組合の組合長Dは、理事会の承認を得ることなく、組合所有の土地を上告人へ売却する契約を締結した。上告人は、定款上理事会の承認が必要であることを認識していたが、本件売却につき承認がありDに権限があると信じていたと主張し、売買契約の有効性を争った。
あてはめ
上告人は被上告組合の定款上、本件土地の売却に理事会の承認が必要であることを認識しており、代表権制限について「悪意」であった。そのため、民法54条(当時)の「善意の第三者」には当たらない。また、上告人が「理事会の承認があり組合長Dに権限がある」と信じた点についても、諸般の事情に照らし、そう信じるに足りる「正当の理由」があるとは認められない。したがって、110条類推適用の要件を満たさない。
結論
本件売買契約につき被上告組合はその責任を負わず、上告を棄却する。
実務上の射程
法人の代表権制限に関する民法54条(現60条、現一般社団法人法77条4項等)と表見代理の関係を整理した判例である。第三者が制限自体を知っている場合でも、個別具体的な権限授与(理事会決議等)があると信じた場合に「正当な理由」があれば110条類推適用で救済される余地を認めた点に実務上の意義がある。
事件番号: 昭和39(オ)1413 / 裁判年月日: 昭和40年12月14日 / 結論: 棄却
(省略)
事件番号: 昭和29(オ)702 / 裁判年月日: 昭和32年7月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が特定の相手方との売買を禁止する内心的意思を持ちつつ、その制限を付さずに売却の代理権を与えた場合、受任者がその真意を知り又は知ることができたときは、民法93条類推適用により代理権授与が無効となり、当該相手方との売買は無権代理として本人に帰属しない。 第1 事案の概要:本人の先代は、土地共有持分…
事件番号: 昭和30(オ)129 / 裁判年月日: 昭和31年10月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成否に関し、代理人と称する者に権限があると信ずべき正当な事由の有無は、契約締結当時の諸事情に基づき客観的に判断されるべきである。本件では、代理人と称する訴外Dに権限があると信じたことについて、相手方の代理人に正当な事由が認められるとした原審の判断が維持された。 第1 事案の概要:上告人を…
事件番号: 昭和31(オ)818 / 裁判年月日: 昭和33年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成否を判断するにあたり、相手方が代理権があると信じたことに正当な理由があるかは、過去の交渉経緯や取引条件の合理性を総合して判断されるべきである。本件では、本人が過去に高値での売却を主張して拒絶した経緯や、代理人が提示した価格が本人の希望を大きく下回る点等に照らし、過失が認められ表見代理は…